民藝旅 vol.1 山陰・愛媛編 \6日目/【瀬戸内海→愛媛県 松山市】
4月13日土曜日 晴れ。
急がないと。早く。日がのぼる前に、展望台へ。
朝6時。空が燃え始めた。
駐車場についたのはいいが、どこに展望台があるのかわからない。寝不足で頭が回らなかった。案内図が理解できない。ひとまず、太陽が見えた林の中に走って入った。
昨夜、怖いことがあったから眠れなくて。半ば泣きながら、展望台を探して走り回った。太陽が、ものすごい勢いで空へ登る気配を背中に感じた。
霞む目をこすりながら、もう一度、案内板を確認する。
第一展望台は、駐車場の近くにあることがわかった。久しぶりに悪態をつきながら走った。
朝6時20分。
瀬戸内春景。どうしても、この光が見たかった。
淡い、淡い、薄紫色の世界。
旭化成のCMでお馴染みの「さよならの向こう側」が、風に乗って聴こえるようだった。
太陽は、意外とゆっくりやってきて、桜を燃やしながら、天へと昇った。
以前から、顔出しするか悩んでいたのだが、信頼しているデザイナーさんから「優ちゃんは、人と会って、人柄を知ってもらった方がええんとちゃうかな。どんな人が絵を描いているのか、わかってもらった方がええと思う。」というような、言葉をもらったことがキッカケで、ビデオで挨拶してみることにした。
投稿してから2日後くらいに気が付いた。なんてこったい、化粧してない。
化粧しようと、していまいと、気にするのは自分だけ。でも、次は口紅くらいは塗ってから投稿したいなと思った。私にも恥じらいってもんがあるのだ。
* * *
瀬戸大橋を渡った先は、香川県。ちょうどお腹がすいてきた。
朝6時30分から開店しているうどん屋さん。老いも若きも、ずるるっと勢いよくうどんを飲んでいる。
* * *
腹ごしらえして、道のりはあと半分。150kmくらい。
100kmを過ぎたあたりから、だんだん涙が出てきた。想像以上に、長距離運転は辛いのだ。
製紙工場群を走り、「おジャ魔女カーニバル」を歌いながらアクセルを踏む。
なんなら、「Butter-fly」は大熱唱だ。
心がピンチの時に、奮い立たせてくれるのは、子ども時代を励ましてくれた作品なんだな…と、クリエイターとしてしみじみ。私もいつか、子ども達のよりどころになる作品を作りたいな。
* * *
全てを諦めたような顔をした「虚無うさ」というキャラクターの生みの親、涼田郎ちゃん。普段から面白くて、なんとも不思議な魅力のあるこの子と、どうしても話してみたかった。
松山駅で待ち合わせをして、かの有名な松山城に上った。
このお城、山の上に建っているので、天守閣に行くために、登山部のトレーニングコースみたいな道を行くのだ。
フリークライミングが捗りそうな絶壁。拙者は遠慮するでござるよ。
城の上で、愛媛県の方言「伊予弁」の民話を聞かせてもらった。
「地獄のありか」「鈴の唄くらべ」「大森彦七と鬼女」「くしゃみくしゃみ天のめぐみ」4つのお話を、ベテラン伊予娘が面白おかしく語ってくれた。
「くしゃみくしゃみ天のめぐみ」のお話が面白かったので紹介しようかな。
(伊予弁は書きとめきれなかったので、標準語で)
「くしゃみくしゃみ天のめぐみ 」
むかしむかし、“くしゃみのおっかあ”に子どもができた。
このおっかあがくしゃみをすると、みんな吹き飛ばされてしまうほどだったので、くしゃみのおっかあと呼ばれていた。おっかあは、はじめて生まれた子どもに“初太郎”という名前をつけようと、役場へ向かった。
役人:子どもの名前は?
おっかあ:は、は…ハックショーーーーン!!
役人は、名簿に「ハクション」と名前を書いた。
ーーー
ハクションはその名前から遊ぶ人もなく、青年になってからも嫁が来なかった。
ハクション:おら、遠くの村へ働き口を探しに行こうと思うんだ。天狗山の向こうには、大きな村があって、そこには沢山仕事があるって聞いたんだ。
おっかあ:この村から、その村に行った人は誰もいない。お前には無理よ。
ハクション:うん。そこで、おっかあの大ハクションで、おらを山の向こうまで飛ばして欲しいんだ。
それから、おっかあは何日も何日もくしゃみを我慢した。
そしてある朝。ためこんだくしゃみを、松の木の上にのぼった息子めがけて発射した。
ハ、ハ、ハクショーーーーーーン!!
息子のハクションはビューーーンと山の向こうに飛んで行った。
そして、庄屋のお屋敷の屋根の上に落っこちた。
水をかけられて正気を取り戻したハクションは、何度もくしゃみをした。
ハクション!ハクション!
その様子を見た、庄屋の娘さん。
耳が聞こえず、今まで笑ったことのなかった娘さんが、はじめて笑った。
それを見た庄屋のご主人は、しばらくハクションに家にとどまるように願った。
ーーー
ハクションはこよりを作って、自分の鼻をくすぐりくしゃみをしてみせる。
ハクション!とくしゃみをする様子をみて、庄屋の娘さんは笑った。ハクションは、こよりで娘さんの鼻をくすぐってみた、娘さんは声を立てて笑った。そして、ハ、ハ、ハクション!と大きなくしゃみをした。
すると、不思議なことに、耳が聞こえるようになったのだ。
耳が聞こえるようになった娘さんは、言葉を覚えて、話せるようになった。
帳屋のご主人は、ハクションに娘の婿になって欲しいと願い、2人は結婚することになった。
ーーー
結婚式に、くしゃみのおっかあがやってきた。
庄屋の庭で、村の皆が集まってご馳走を食べようとした、その時。
くしゃみのおっかあの鼻が、ムズムズっとした。
ハ、ハ、ハ、ハ…
おっかあは顔を空に向けた。
ハックショーーーーン!!
すると、庭の椿の花が舞い上がり、一つが娘の頭の上に落ちた。
娘はにっこり笑った。
庄屋の主人は、くしゃみで耳が聞こえるようになった娘を見てこう言った。
「くしゃみ、くしゃみ、天のめぐみ」
* * *
りょたろーちゃんは、藤の花。
お汁粉を食べている間も、くすくすと可憐に笑って、相槌をうってくれる。サラサラと揺れるストレートヘアが、風に揺らめく藤のように見えた。
趣味が似ているので、探り探り、お互いの好みを打ち明けあった。絵描きの友達は、みな、ひそやかな趣味を持っているのだ。
* * *
りょたろーちゃんに手を振って、今日の最終目的地、漆作家ほだかさんのご自宅に向かった。この日は、ほだかさんのご自宅にお泊まりだ。
ほだかさんは、お料理上手。スパイスから調合する、ココナッツミルク・チキンカレーのあまりの美味しさに白目。コンソメスープに、サラダ。旦那さんは、口でとろけるレモンチーズケーキタルトを買ってきてくださった。
ほぼ初対面のもじゃもじゃに、温かいおもてなしをしてくださる、ほだかさんご夫婦。世界には、こんなにやさしい心の持ち主がいるんだ、と2人を産んで育ててくれた全てに幸せがあるように祈った。
漆塗りのスプーン、口当たりの滑らかさは衝撃的。欲しい…
あんなに食べたのに、するっと胃袋に溶けていったケーキ。美味しかった…ごちそうさまでした。
ほだかさんは、はじめてあった時から波長が似ていて、言葉がするする出てきて止まらない。作品のこと、サイトのこと、ブランディングのこと、いろんな話をしていたら深夜2時を過ぎてしまった。それでも、もっと話したかった。
* * *
会いたかった子とお城デートして、小学生の頃にお世話してくれたお姉さんにそっくりの友人が見つかって。
人との出会いが人生を豊かにしてくれる喜びを、からだ中で噛み締めながら、ほだかさんがひいてくれた、ふかふかの布団で眠った。
りょたろーちゃん、ほだかさん、本当にありがとうございました!
明日は、蠢くザクロ・砥部焼二代目と内子町へ、旅は続きます。
お楽しみに!もじゃ!
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