プロダクトマネージャーがSTEPNを本気で分析してみた
注意
このnoteは、決してSTEPNの”歩くだけで稼げる”という金銭的なインセンティブだけを示し、アプリの利用を勧誘するものではありません。あくまでもプロダクトの魅力そのものを解説したものです。ゲームそのものの攻略や仕組みを説明するものでもありません。現在ベータ版ですので、今後突然のアプリのクローズや価格の下落など予期せぬことが起きる可能性が十分にあります。DYORをご理解の上お読みください
2022/4/3 追記
それでは本題へどうぞ!
こんにちは、米国のSaaS企業でプロダクトマネージャーをしていますハヤカワです。
今日は、STEPNというWeb3のライフスタイルアプリについてプロダクトマネジメントのフレームワークを使って、プロダクトそのものの魅力を解説していきたいと思います。
STEPNについてご存知ない方は、Webページをチェックし、GoogleやTwitterで検索してみてください! 👇
今朝、運営のNFTプレゼント企画で当選してしまい、勢いでこの記事を書いています。
さて、まずは、STEPNのプロダクトの魅力を分析する前に、STEPNチームのミッションをWhy, How, WhatのGolden Circleの形で確認してみましょう!
Why?
なぜ、STEPNというプロダクトが存在し、何を目的として成し遂げようとしているのか?
"数百万人をより健康的なライフスタイルに導き、Web3.0の世界と繋げ、地球環境の問題に取り組むこと"
How?
Whyで掲げた目的をどのように達成しようとしているのか?
彼らはWhyの達成のために、
健康のために
非Crypto民含む、あらゆる人が
簡単なゲーム要素とMove to EarnでWeb3を体験できる仕組み
の提供という手段をとっています。
What?
そこで生まれたサービスがSTEPNです。
STEPNというプロダクトのWhatの主な構成要素は
👟 スニーカーNFT
🪙 2種類のトークン
🛒 マーケットプレイス
となります。ここにゲーミフィケーションや、他の暗号通貨との換金制を加えてプロダクトを成立させています。
さて、STEPNについて何となくわかっていただけたでしょうか?
最も重要なのは「あらゆる人々を健康とWeb3に導くために、Move to earnというコンセプトでゲーム要素を取り入れたヘルスケアアプリ」であるということです
これを実現するために、3つのコアバリューを掲げています。
💎Core Values
Web3やNFT, Game-Fiと聞くと、難しいと感じる人もいるといますが、STEPNチームはあくまでも、「誰もが簡単に使えること」を非常に丁寧に3つの価値で伝えています。
このことからも、STEPNが複雑で難しい、ときに怪しいただの”お金稼ぎのアプリ”ではないことを理解していただけると思います。
では、このSTEPNのプロダクトの魅力がどこにあるのか?プロダクトマネージャーの観点で解説していきたいと思います。
ここから先は、プロダクトマネジメントの基本的な用語や考え方をベースに解説していきます 🙏
プロダクトマネジメントでSTEPNを分析してみる
🧳 ジョブ理論 - JTBD
まず、STEPNというプロダクトが満たしているユーザーのジョブ (Jobs-to-be-done: 成すべき仕事)はなんでしょうか?ジョブ理論をベースに考えてみたいと思います。
ジョブ理論についてはこちらをご覧ください 👇
まずは、JTBDを捉えるのに便利なフレームワーク「Force Diagram」で考えてみます。
Force DiagramはJTBDの考え方をもとに、人が新しい行動をとる時には、常に4つの力が作用していると捉える図解方法です。
ユーザーが、Current Wayという現状から、New Wayという新しい行動を取る際の力の作用を表しています。
①PUSH: 現状を変えたいと模索し、押される力
②PULL: 新しい方法に引き寄せられ、魅力に惹かれる力
③INERTIA: 現状に戻りたくなる力
④ANXIETIES: 新しい方法に対する不安や懸念で遠ざかる力
で構成されます。
では、これらをSTEPNに当てはめてみましょう
PUSH
普段軽い運動をするような非Crypto民にとって、"毎日の運動にもう少し楽しみが欲しい”
運動不足なCrypto民によって、“運動不足すぎてやばい”
PULL
“Web3やNFTって詳しく知らないけど、新しい領域に興味はある”
“Move to earn”という新しいコンセプトと、Solanaコンテストでの優勝実績があって、期待できそうなプロジェクトだ
ANXIETIES
“最初の靴高いし、損したら嫌だな”
“暗号通貨とかNFTって怖いかも”
そのほか、P2EやGame-Fi全般にまつわるPJTの失敗を予見されるリスク
INERTIA
“今まで通り音楽聴きながら散歩しよ”
“家にいながらパソコンいじってよう”
さてでは、この4つの力関係を意識しながら、ジョブのストーリーを表現する「When, I want to , so I can」で表してみましょう。
ジョブストーリー1
「在宅ワークが続き運動不足の日々が続いている中で、日々軽い散歩をする時に、歩いているときに音楽を聴くだけではなく、もっと楽しく、モチベーションが上がり、誰かに自慢できるものが欲しい」
ジョブストーリー2
「暗号通貨やNFT, P2Eについて一日中パソコンの画面を見たままで、常に頭の中からトレードや先日出たNFTのプロジェクトやTwitterでの話題を追うのに必死な時に、体と心が休めたい、だから頭と身体をリフレッシュできるものが欲しい」
このようにSTEPNが満たしているジョブは大きく2つあります。
そして、それらを2つの体験によってそれぞれのジョブを解決しているのだと思います。
非Crypto民に対する、馴染みのある”健康”をトリガーにしたWeb3.0の体験
Crypto民に対する、今までなかった”健康になりながら稼ぐ”という新しい体験
この2種類のジョブにアプローチしているのが、STEPNの最大の戦術とも言えます。つまりここには健康とWeb3.0という非常に大きなTAM (Total Addressable Market)をSTEPNが狙っていることがわかります。
🛒 TAMとPMF
このようにジョブがわかると、次にそのジョブを持つジョブパフォーマーが存在するマーケットを定義することができます。
この2つのマーケットにまたがるペルソナがSTEPNのターゲットユーザです。
健康志向の非Crypto民
運動不足のCrypto民
もちろん大きく分けた場合のペルソナなので、運動好きのCrypto民もいますし、これをきっかけに健康を意識する非Crypto民もいます。が、便宜上このように捉えます。
そして、初期のステージでは両方を満たしているユーザーがアーリーアダプターとなり得ます。
つまり、Web3に敏感で、日々新しいプロジェクトを探しているユーザーが、健康やMove to earnという新しいコンセプトを引っ提げているのをみて参入したと考えられます。運動が全く苦手でというよりは、多少歩いたり走るくらいだったら、という方が多いのではないでしょうか。
そして、熱狂的なファンが出始めた、ステージにおけるSTEPNはこのように市場で拡大していると思います。
つまり、特定のユーザー 、健康 x Crypto民に対するPMF(Product Market Fit)が達成している状況です。
そして、現在の市場は、多少Crypto知っていて最新ニュースを積極的にキャッチアップしてるけど、実際にNFTを購入するには至っていなくて、普段から散歩するしやってみようかな。という非Crypto民にアーリーステージでは広がっている印象があります。
私もこのうちの一人に該当すると思います。
今後は徐々に、非Crypto民に健康やヘルスケアというキーワードや、使いはじめやすさで参入してもらったり、全く運動のしない在宅しっぱなしのCrypto民に健康のための運動のきっかけを与え始めます。
そして最終的に、「全くCrypto知りません」という世界の90%を占めるであろう非Crypto民に対して、初めてのWeb3.0のアプリとしてアプローチしていくことになると考えられます。もちろん、これを達成するのは非常に大変であることもわかります。
しかし、これは彼らのメッセージにも表れています。
このようにSTEPNの目指すビジョンと、プロダクトの価値を見てみると、彼らのポジショニングがいかにうまいかがわかります。
ここまででわかったSTEPNのプロダクトのポイントは3つです。
ヘルスケアアプリであること
実際にApp Storeのカテゴリもゲームではなく、ヘルスケアに位置しています。
Cryptoの知識が少なくても誰もが簡単に使い始められること
アプリ内にウォレットが組み込まれており、事前準備がわずかで済みます
Move to Earnという新しいコンセプト
上の2つのメッセージを、シンプルにわかりやすく、誤解なくインパクトある形で伝えるための良いコンセプト、メッセージングだと思います。
これらは、他のP2EアプリやNFTプロジェクトとの大きな差別化要素、競合優位性になると考えられます。
一方で、これらがSTEPNのコアバリューである場合に、裏返しでアーリーステージにおける改善点も考えられます。
🔨今後の改善点
高すぎるシューズ
非Cryptoネイティブの初めてのWeb3.0にしては、STEPNの初期コストは高すぎますよね。この部分は早急に改善しなければいけません。
そこで、STEPNチームは2022年9月頃を目標に、初期費用を不要として、レンタル機能のリリースをロードマップに掲げています。既存の靴の価値を損なうことなく、初心者でも入りやすくするためにはとても重要な機能だと考えられます。
一方で、今のタイミングでリース機能を出してしまうと、Cryptoネイティブであったり、お金儲けを期待してしまったユーザーが安易に手を出し、稼ぎをすぐに売り出し、トークンの値崩れが起きてしまうため、この機能のリリースは慎重に検討されていると考えられます。
ベータ段階における過度な期待値と、価格の暴落のリスク
誰もが簡単に始めたとしても、高額な投資に対して大きなリスクを感じる人は多いでしょう。Game-Fiの性質上、市場原理と神の見えざる手のコントロールは難しいですが、このリスクを精神的に下げるか、実際のリスクを下げるかの2択が考えられます。
健康を無視した、”金儲け”のためだけのユーザーの参入
非常に強いインパクトであるがゆえに、それを怪しんだり、不要に煽ったりするユーザーが増えているのも現状です。招待制の導入や、適切なマーケティングをSTEPNチームも実施していますが、過度な期待値にも合わせて、”金儲け”というイメージが先行してしまうと、今後のユーザー離れや、幻滅期に入ってしまう可能性があります。
現在のSTEPN運営チームには、AdidasのVPが参画している事もあり、運営が突然消えてしまったり、突然今の均衡が崩れることはないかと思います。
しかし、いずれにせよリスクや悪意のあるユーザーや、ミスリーディング、異常な期待値や、煽りを防ぐことがとても重要な時期にあると思います。アーリステージだからこそ、これらを防ぐためにあるのが、STEPNの最大の魅力の一つとも言える、コミュニティの存在です。
🌎 Community
プロダクトの価値を向上させる仕組みは、完璧なリーンキャンバスと、高度な技術力、洗練されたデザインと、ユーザー体験だけでは成り立たなくなっています。
そこで、力を発揮するのが、コミュニティの力です。
B2Bのプロダクトの世界では、Product-led Growthが叫ばれているように、プロダクト開発会社が自ら、営業やマーケティングを行なって、ユーザーを獲得するだけでは競合には勝てません。優位性を保つために、既存ユーザーが新規ユーザーを誘い込み、プロダクト自体がその価値を売り込むモデルを作る必要があります。
その中でも、コミュニティ作りはとても重要です。
B2Bにおいては、完全に手放しで製品を検討、購入、導入、活用するのは難しく、多くの企業が新たなPLG戦略にチャレンジしているのが現状でしょう。
しかし、B2Cにおいては元来から営業や直接的な売り込みをせずユーザーが自らサービスを利用してきました。TwitterやInstagram, Facebook, TikTok, Clubhouseなどはそもそものアプリの性質上コミュニケーションを基本としたアプリなので、ユーザー間でコミュニケーションを繰り返し、招待などによって成長します。
それ以外のB2Cアプリの場合には、いわゆるユーザーの口コミが最大のマーケティングチャネルになります。
STEPNにおいてもそれは同じで、口コミやユーザー間のコミュニケーションがアプリ自体の価値を高めることにつながります。そこで、STEPNでは他のNFTプロジェクトやGame-Fiと同様に、Discordでユーザー間の非常に活発なコミュニケーションが行われています。
STEPNチームも活性化のために、毎時間行われるクイズや新規ユーザーのオンボーディングを促すボットの導入や、毎週行われるAMA(Ask Me Anything)を開催し、景品としてNFTのGiveawayを行なったりと、コミュニティ作りに非常に大きなリソースを費やしています。
私もこれによって、NFTを獲得することができました 🙌
これによって、新規のユーザーは質問を解決し、人がいる安心感を得て、ロイヤルカスタマーはコミュニティ内で自らの役割を見つけ、運営や他のユーザーから認められることや、実際のNFTなどのGiveawayを通じて、インセンティブをもらうことでよりコミュニティに貢献するモチベーションが与えられます。
このコミュニティ作りも、STEPNの重要なポイントの一つと言えます。
🎨 Design and Experience
次に、アプリ自体のデザインやUXにも相当力を入れています。
Game-Fiの特性上残念ながら、暗号通貨を入れるところまでは多少ステップを要し、難しい点があります。この点も運営は認識しており、将来的にウォレットのシンプル化等を目指しています
しかし、暗号通貨がウォレットに入ってしまえばそこからは非常に簡単なUXを提供しています。
日々の運動のためには、わずか1ステップで始めることができます。
また、アプリの本質はゲームなので、ゲーミフィケーションを促すような、作業を要する修理やレベル上げ、ガチャ要素 (ランダム要素), 計算が必要なステータス振りやmintの戦略が存在します。
これらは、8割ほどがホワイトペーパーで開示されているため、熱のあるユーザーは熱心に学びますし、2割ほどがブラックボックスであったり、ランダム性が取り入られているため、ユーザー間の結果の報告や、データの分析、昔からある”攻略ガイド”や”裏技集”的なノリで、ユーザーが熱中する仕組みになっています。
おそらく、今後は、よりゲーミフィケーションを取り入れたり、アルファオスを促すようなリーダーズボードなどを計画しているので、よりユーザーが熱中する仕組みを導入することになるかと思います。
🪝 Hook Model
ゲーミフィケーション以外の要素でいえば、Hook Modelの要素も垣間見れます。
Facebookで言うと、以下のようになります。感情的な内的トリガーと、スクロールという作業、友達の予期せぬ近況報告やつながりを感じ、コメントしたり投稿することで、さらに期待し、習慣化するというものです。
これをSTEPNで捉えるとこのようになります。
Trigger
まず、Triggerはこれまで話したような、健康やWeb3への興味という内的トリガーが大きくユーザーに刺さっています。
Action
さらに、とるべきアクションは簡単で、ただ歩くだけです。このActionの簡単さもポイントです。
Reward
そしてたった数分歩くだけで、トークンが入り、ユーザーはその時点で報酬を獲得することでアプリの利用に満足します。
Investment
しかし、実はMove to earnの仕組みは複雑に絡まり合っていることに気づくのです。もっと効率よく稼ぐにはどうすればいいかな?どんな靴の種類が自分には適切なのかな?レベル上げと原資回収どちらを優先しようかな?どんな戦略で靴を育てようかな?などといったことに時間や労力を使うのです。
そのために、STEPNではホワイトペーパーに非常に複雑なゲーム設計を公開しています。ユーザーはそれを見たり、ユーザーと会話することで、労力を投資することで、次に歩くときにはもっと稼げるだろう、というの期待します。
Hook Modelによる習慣化
そして、STEPNでは1日に歩ける時間が決まっている一方で、24時間で100%リフレッシュする仕組みになっているので、できるだけ毎日習慣化した方が良いことに気づき、ユーザーはHook modelにしっかりとはまり、アプリを必ず毎日開くような行動習慣になります。
✨ STEPNの成功指標
プロダクト開発において、重要なKPIの一つがDAU (Daily Active User)です。1日あたりの利用ユーザー数を指します。
B2B製品やB2Cの中でも、1週間に一回や1ヶ月に1回しか使わないアプリってありますよね?そのようなアプリはなかなかユーザを習慣化させにくいのです。
したがって、B2BでもB2Cでもいかにユーザーに毎日使ってもらうか?を大きな指標として使っているところが多いわけです。
その点STEPNは、必ず毎日歩くゲーム設計と、相場と連動したマーケットプレイスの価格変動というランダム性が加わっているためユーザーは歩かない時でも毎日、日常的にアプリを開くようになってしまいます。
さらには、友達や家族に勧めて、一緒に歩いたり、戦略を共有したりします。これらの行動も、時間の投資や、自分の信頼の投資をすることで、ユーザーはよりのめり込むようになると言えます。
その結果、2/21時点で既に21k DAUを達成し、グラフを見るとわかりますが、1月末あたりかが、いわゆるTipping Pointと呼ばれる、PMFを達成した瞬間のユーザーの爆発的な増加傾向がみられます。
他にも、STEPNチームには、DAUだけではなくジョブをどこまで満たすことができているか?をプロダクトの成功指標として追いかけてもらいたいです。
具体的に言えば、
ユーザーの健康にどれだけ寄与したか?
ユーザーの総/平均移動距離
体重や体調の変化をアンケートで収集
非Crypto民がどれだけ参加し利用したか?
非Crypto民の総/平均獲得トークン数
利用ユーザーの非Crypto民の割合
この大きな2つのジョブをどれだけ満たしているかが、STEPNがプロダクトとして提供している価値になると思います。
さいごに
いかがでしたでしょうか?プロダクトマネジメントのフレームワークや考え方を使って、Web3ヘルスケアアプリ STEPNの魅力を紐解いてみました。
私もこれまでも毎日散歩をしていたのですが、2月頭からSTEPNを始めてより楽しく、運動するようになりました。散歩だけの日々だったのが、ジョギングもするようになっています。
初期投資こそ高かったと思うものの、長期的に楽しめて、健康的になれれば嬉しいなと思います。怪しい宣伝や過度な期待値からの幻滅期に入らず長く良い、誰もが楽しめるWeb3のヘルスケア・ゲームアプリになってもらいたいです。
これからも、プロダクトマネジメントや、Web3関連のプロダクトやサービスの動向を解説いきたいと思います。
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