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薬局の本棚🔹終末期医療

〈薬局の本棚〉では、読書好きの薬剤師が、薬局に立ち寄った方に読んでほしい本を紹介しています。

今回のテーマは終末期医療。
病気などでもう先が長くないかも、となったときどうするか?それにまつわる諸々を書いていきます。

いきなりですが、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)ってご存知ですか??厚労省がアピールしようとしているわりには、浸透してない感が満載の用語…。
日本語訳は、「人生会議」です。

似たような言葉で、「事前指示書」(リビング・ウィル)というのは聞いたことがある方も多いかも。これは、将来自分が判断能力を失った場合に備えて、あらかじめ医療行為やケアに関する希望を文書で残しておくものです。
終活として、エンディングノートに書く方も増えていますよね。

それに対して、本人に話を聞けるうちに話し合いをしましょう、そして、一回で終わりではなく、繰り返し行いましょう、というのがACPです。

ACP(Advance Care Planning)とは、将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、 本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援する取り組みのことです。

日本医師会ホームページより

厚労省のページもご参考までに貼っておきます。


でね。
これによって、本人が医療者や家族としっかり話し合いをし、納得して自分の(終末期の)過ごし方を決められるのであればとても良いと思う。
ただ、どれだけの人がはっきりと〈わたしはこうしたい・こうしてほしい〉と表明できるのかしら。もちろん、すごく難しいことを分かったうえで最善を尽くすしかないけれど…。

例えば、回復の見込みがない病になった。余命どれだけと言われた。そうなってから、急に「どうしたいですか」って聞かれても、と思う。
(なので、前もって、ツネヒゴロから「人生会議」をしておきましょうっていうことではあるのだが…いやー、理想はそうですがね。。)

そもそも、わたしたち今まで普通に病院にかかったときに、治療に関して「どうしたいですか」と聞かれてますか??

受診したときの基本フローって、
症状を訴える ⇒ 医師がオーダーした検査をする ⇒ 結果を説明される ⇒ お薬出しときますね、また一ヶ月後に来てください、もしくは様子を見て治らなかったらまた来てください、等々。
というパターンが多いのでは。
ここには、〈あなたはどうしたいですか?〉が入り込む余地が無い。

今でこそ、インフォームドコンセント(説明と同意)、病状について説明し、患者が納得してから治療をしましょう、ということにはなっていますが。
驚くべきことに、ひと昔前(体感では1990年代頃)までは、癌の患者さんには病名を告知しないのが普通だったし、処方する薬の薬効もきちんと説明されませんでした。
『医者からもらった薬がわかる本』っていう一般向けの書籍があったくらい。(いまもあるのかな?)
処方薬の錠剤は、薬品名が薬本体に刻印されておらず、アルファベットや数字でしか判別できない(判別させない?)状態。
塗り薬のチューブにも薬剤名の記載はなく、チューブにペラっとした紙がついていて、紙に薬品名が書いてあった(そして、病院ではその紙を取り去ってから患者さんに渡すのが普通だった!)。
つまり、患者は名前も分からない薬を黙って服用せよ、というまさに「知らしむべからず、由らしむべし」状態だったわけですよ。

翻って、現代、いきなり問われる「あなたはどうしたいですか」に答えるためには、
①知る(医療者に説明を受ける、自分で調べるなどして、病気や治療、介護について理解する)
②考える(信頼できる人に相談することも含めて)
③選ぶ(最終的には自分で決める)
というプロセスが必要になると考えます。そして、選んだからといって最終決定というわけではなく、考えや状況が変われば変更していい。

医療に限らず、いままで、わたしたちはあんまりこういう練習をしていないと思うのです。知って、考えて、選ぶ。
急に選ばされて大混乱したのが、コロナワクチンを打つか打たないか、とか、マスクをするかしないか、だったのではないかと。

〈知る〉のところに関して言えば、完全な知識とかデータってあり得ないわけです。科学は現時点で「確からしい」ことは言えるけれど絶対に正しいかどうかは分からない。万人にとっての正解は無いので、自分にとってなるべく良いと感じるものを選ぶしかないのです。

しかも、選ぶ内容は食べ物とか着る物とかではなく、最終的には〈死に方〉です。一回きりの経験です。
古代ギリシアの哲学者、エピクロス曰く
〈死の練習をせよ〉
って、このことだったのかしら。


書籍の紹介のはずが、前置きがずいぶん長くなってしまいました。今回紹介したいのはこちらです。

『朝と夕』  ヨン・フォッセ 著
2023年のノーベル文学賞受賞作家による、誕生と死を描いた散文です。

死に向かう主人公の最期の一日の描写がすばらしく、こんなふうに人は死んでいくのかもしれない、そうだったら善いな、と思えた話でした。

もう一冊。

『ツユクサナツコの一生』  益田ミリ 著

こちらは、人生会議してる暇もあらばこそ。なんですが、生き方、死に方についても考えさせられる本(漫画)です。生と死は繋がっている。

エピクロス曰く「死の練習をせよ」。ひょっとすると君はそんなことを学ぶのは余計なことと思うかも知れない。ただ一度しか使う機会がないのだから。だが、そういうものだからこそ、私たちは練習しなければならない。常に学ぶべきもの、それは私たちが知っているか否か試すことのできないものだ。

『倫理書簡集』ルキウス・アンナエウス・セネカ

ただ一度しか使う機会がないけれど、みんな、全員、もれなく、一度は使うんですよね。元気なうちから練習を、せめて練習の準備は少しずつしておきませんか。
考えるきっかけになりそうな、おすすめの本をご紹介してみました。

それではまた。




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