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⑪前を向くこと

5月27日。

手術前の最後の診察。

この日は妹が付き添ってくれた。


診察室に入り、先生に「決めましたか?」と聞かれる。

全摘か部分切除か。

あれからずっと悩んだのだが答えは出ない。


選んで大丈夫なの?という気持ちもあった。

一択じゃない。

選択肢があるなんて幸せなのかもしれないけど、自分の体のことだが自信がないのだ。

正解は、どっち何だ?????


元夫は

「残せる可能性があるならよかった!」と言い

妹は

「私なら不安と戦い続けられないから全摘を選ぶかも」と言った。

元夫は男だからそう感じたのか?

妹はほぼ私と同じ意見だった。

一週間、ぼんやりと考え続けた。

正解はどっち?

私の体にとっての、正解はどっちなんだ?

結局、答えが出ないまま、私は診察日を迎えた。


開口一番「決めましたか?」と先生に言われ、とっさに口から出た言葉は

「部分切除でお願いします」だった。


自分でもびっくりした。

隣で妹も「あ、そうなんだ」という感じで私を見た。


でも先生はまるで安心したかのように頷いて「わかりました」と笑顔で言った。


その後、手術に関する説明を再度聞く。

もうあとは手術あるのみ、だ。

「頑張ります」と私が言うと

先生は「頑張るほどのことじゃないわよ」と言って笑った。


部分切除だと手術時間は麻酔を含めドアツードアでも3時間程度、手術自体は2時間くらい。

入院した翌日に手術、2日後に退院。3泊4日。

翌日の朝食から普通食だし、みんな元気に退院して行くよ、と。

内臓の手術と違って、乳がんの手術は比較的簡単な部類なのだという。

私が帝王切開で出産した時は丸1日水分を取れなかったし、食事は重湯から始まったっけ。

帝王切開は局所麻酔で頭はしっかりしていたけれど、体の回復は切る場所によってこんなにも違うんだ、と初めて知った。



今の私は痛みもなにもない。

コロナの影響を受けたくないから休職しているだけで、体は元気そのものだ。

乳がんを発症していて「元気そのもの」というのもおかしな話だが、なんせどこも痛くもかゆくもないのだから。


でも。

手術をしたら状況は一変するんじゃないか?

しばらくは普通の生活ができないだろう。

腕が上がりにくくなるとか、重いものを持たないほうがいいとか、術後の説明を聞いただけで憂鬱になる。

うつ伏せにもなれないだろうな、とか。

傷は大きいのかな、とか。

考えるとどうしても不安しかない。

不安だけど、手術を受けないという選択肢はないのだ。


4月1日に乳がんだと診断されてから2ヶ月、気持ちは上がったり下がったり、本当に忙しかった。

「頑張る」ことで賞賛されてきた長女の私は初めて泣き言を言った。

家族も、友人も、元夫も、みんな励ましてくれた。

50年生きてきて、初めて心の底から「一人では生きていけない」と思った。

送られてきたお守りを何度握りしめただろう。

優しい言葉にどれだけ泣いただろう。





6月11日に予定されている手術まで、あと2週間。

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まこ
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