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「犬はバナナを食べない」7

 秋になった。季節が変わり、物悲しくなる前に、私は、一つ、年をとった。鏡を覗いてみても、相変わらず、子どもくさい顔とスタイルが現れるだけだったが、周りの人間の反応は、子ども時代と少しずつ、変わっていた。女性として、見られているのだろうか?なんて、訝しんでしまう。それだけ、自分が、真の女性という性とはまだまだ程遠い気がしていた。パンツスタイルで通していたし、メイクはおろか、化粧水も使ったことがなく、色気づいてきた同世代とは、私は「ちょっと」違うんだ、と懸命に思い込もうとしていた。より子はといえば、ノーメイクながら、ロリータチックな安物の洋服にアイデンティティを見出していて、バイトで稼いだ金を、ジャニーズとそれに注ぎ込んでいた。皆が、それぞれの道を進んでいこうとする気配を強く、感じた。そんな夏休み明けの秋だった。
 ちょっと気になる男の子も、出来た。隣に座っている、矢無くんだ。ヤンキーでなく、ちょっとお洒落に気を使っていた彼は、いつもノートを取らずに、ぐうぐう寝ているか、みんなの話を遠くから眺めて、ニヤニヤ笑っていた。私は、彼の観察にと、努めた。だが、観察のし過ぎで、彼が、女の子と二人で、嬉しそうに歩いているところまで目撃してしまい、三日三晩、ショックで、泣き通した。ありゃりゃ、こんなに好きだったのか、あちゃー、と思ったが、時すでに遅し。彼は、夜間高校を退学してしまっていたのだった。
 そんなふうに、秋は特別な深まりを魅せた。

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