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「パラソル&アンブレラ」⑦

第七話「VS(バーサス)の果てに」
 その夜、古透子は夢を見た。以前、小さい頃にいじめられた事があったのだが、そのいじめ少年が夢に出てきた。古透子より背の小さな少年で、年頃の割に背の高い方だった古透子が、気に入らないのであった。少年が囃し立てた。
「ノッポ~!ノッポ~!」
(うるさいわね、今では皆それなりに背があるから、私なんて中くらいの方よ)
そう思って、大人の古透子は、いじめられた当時のとっくに忘れ去っていたことを思い出した。
 すると、少年の影が段々と大きくなり、少年に覆いかぶさって、なにやらモニョモニョと変化していく。そして、影の中から現れたのは見知らぬ中年男だった。
「古透子〜!古透子お〜!!」
中年男の影は、古透子を呼んで叫んだ。影はどんどん大きくなり、古透子に覆いかぶさった。
「古透子お〜!!会いたかったぞ!!父さんだよ!?」
古透子は、驚いて、影の中で思いっ切りもがいていた。そして薄目を開けて、影を睨みつけると、
「あんたなんかねえ、要らないわ!!私はね、やっちゃんが居たらそれで十分なの!!おかーさんに、そう頼まれたんだから!!」
すると、影の口が裂け、炎にすり変わって古透子をさらに包んでいった。
「熱い。。。でもね、私は燃え尽きるわけにはいかないのよ!!」
バッと古透子が両手で炎を払うと、炎は今度は老人にその姿を変えていった。
「古透子。。。私はもう年なのだよ。。。古透子。。。」
老人の影は、すすり泣いた。
「どうだい、古透子?父さんと一緒に、行かないかい?」
古透子は、その影を思い切り睨みつけて言った。
「あんたが誰であれ、私はどこにも行くもんですか!!、、、あんたの正体はわかってるわ。死よ!!冥界から、あんたは誘いに来てるんだわ!!」
すると、正体を知られてしまった影は、おおおおう!!と呪詛の言葉を吐きながら、縮んでゆき、終いには手のひらサイズになってしまった。それを思い切り踏んづけた古透子は、
「フンッ!」
と、鼻を鳴らして、ホッと安心したのだった。

 ふっと目が覚めた。ラジオからはもう、早朝の番組が流れ出していた。古透子は、聞き慣れた優しい声が聞きたくなっていた。代わりに、スマホのサブスクから、「海へ来なさい」を呼び出した。スローな曲の優しい言葉が、あたりに響き渡った。いつか、友人(ゆひと)の母と父に会えるような予感がした。それがどういうことか、未だ古透子は、理解してはいなかったが。
 隣の部屋では、八未の気配がしていた。また、あの子朝帰りしたんだわ。やっぱり、おかーさんそっくり。。。そう思って、微笑むと、また夢の中へと落ちてゆく。
 今度は一度も夢を見なかった。そばに「海へ来なさい」が流れていたからかも知れなかった。古透子は、いつの間にかそれをお守り代わりにしていたようだ。
「♫海へ〜、来なさい〜
そして、心から、幸せに、なりなさい〜」
それが、夢現に聞こえた、確かなメッセージだった。




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