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Photo by
takeda_marimo
「犬はバナナを食べない」5
真っ暗の闇の中、線路の上を、トボトボと歩いていた。裸足で。なんか、前にも見たことあるなあ、この場面、と思ったら、芥川龍之介の「トロッコ」の終わりのところだった。ああ、脚が痛い。周りが見えない。明かりはひとつもない。私は、どこまで歩いてゆけばいいんだろう、、、
、、あつっ!、、あつってば!!
ハッと目が覚めると、そこは、母の病室だった。
「あ、、!」
母のベットの脇で、居眠りをしていたようだ。母が怪訝そうに、見つめていた。母はふっと息を漏らして、
「大丈夫?疲れてるんじゃない?」
と、言った。
「あはは、そーみたい。」
ガクッとうなだれて言うと、
「まあね。こんな状態だから、仕方ないけど。」
母がため息をつく。自分の家族のことなのに、どこか他人事のようだ。母は、いつもどこかそんなふうだ。
「ははは。」
何でもないふうに笑ったが、実は内心、私は母のそんなところを訝っている。
「これからは、なんでも自分で決めなきゃならないんだから。しっかりしてよ。」
「そーだね。あはは。」
辛いのだ。母も。でも、私も辛いんだよ?幾度となく見た夢も、芥川龍之介の「トロッコ」にとって変わってしまった。私は涙も流せずに、母の病室を後にした。
帰りの電車で、「夜のバス」を聴いた。母の病室で、流せなかった涙が溢れる。私はひとりぼっちで、どこに向かっているんだろう?