見出し画像

アベノマスクをタイムカプセルに

はじめまして、あなたがどなたかは存じませんが、私は、いわゆるあなたの「先祖」です。名前など詳しいことについては、あとで見ておいてくださいね。

あなたがこれをご覧になる頃、おそらく私はこの世に居ません。ですが今日はあなたに、一つの出来事をお伝えしたいと思い、ペンを執りこの品に添えました。

私が今 居る世界

2020年5月15日、私の家にこの品が届きました。あなたの時代にこういった物が存在しているかどうかは分かりませんが、これはマスクといって我々の時代の人間が病原体やウイルスと戦うために使った物です。

きっとあなたの時代はこのような物を使わなくても、病気に侵されることなどない時代なのかもしれません。ですが私自身、あなたやあなたのご家族が何の不安も無く暮らしておられるとも想像しがたいのです。

なぜなら我々人間は2020年においても、大きな過ちを犯し続けているからです。正直に申し上げますと今現在、将来に向けて明るい展望が無いのです。

このマスクが届いたいきさつ

まずあなたに、このマスクが私の手元に届いた経緯についてお話しさせていただきましょう。

今回のウイルスが蔓延し始めたとき、我々はマスクを奪い合いました。市場からマスクが姿を消し始め、目ざとく買い占めた業者がそれを法外な価格で販売し始めました。

2020年の2月になるとマスクが全く手に入らなくなりました。毎朝、薬店の前に長い行列が出来ました。

そういった惨状に対し、日本では1世帯に2枚の布製マスクが配られることが決定しました。それが4月の10日過ぎのことです。

その後、配布したマスクに不良品が見つかったり汚れが付着していたりといった不具合がありましたが、遅れはしたものの皆さんの努力のおかげで今日、手にすることができました。

いろいろな方々の努力が実って届けられた2枚のマスク。私は配布に尽力してくださった皆さまに、心の中で丁重にお礼を申し上げました。本当にありがとう、と。

でも、今現在、私の手元には既に多くのマスクが存在します。それらの殆どは、仲間達や家族が懸命に探してきてくれた物です。そんなことを考えていると、ふと先日書いた日記のことが頭の中をよぎりました。

それは、まだマスクが品薄だった頃の4月26日に書いた日記です。

4月26日の日記

今朝 私の友人が東京から大阪に帰ってきました。
彼は大阪出身ですが、東京への永住を決断したやつです。そんな彼がコロナ渦のなか、大阪へ戻ってきました。
彼の母が入所している施設から手紙が届いたそうです。「何枚でも良いので、マスクを寄付して欲しい」と。
彼は手持ちの中から10枚を工面して、東京から戻ってきたのです。10枚のマスクを届けるために。
泣けるじゃありませんか。
叶いませんでしたが、私はすぐさま彼に会ってその肩を抱いてやりたくなりました。
私はそんな彼の友人であれたことを誇りに思います。
コロナが連れてきたのは災いだけではありませんでした。憎しみや恨みだけでもありませんでした。
こういった試練を乗り越え、我々は成長していくのですね。


未来に住むあなたへ

我々は今回、ウイルスがもたらしたのが災いだけでは無かったことを知りました。ウイルスは、争いや憎しみまで連れてきたのです。これは悲しむべきことです。ですが、そんな中、人々が助け合って動く姿も多く目にしました。

私はあなたたちの時代、もっと多くの人々が助け合って生きていることを望みます。そういった思いを胸に、今回、私はこのマスクをタイプカプセルに入れました。

あなたがいつの時代の人なのか、私にとってどのような縁のある方なのかは存じません。

ですが私のこの思いを、このマスクと共に受け取っていただけたらとても幸せです。

あなたと周りの方々が、きっと幸せでありますように。

いいなと思ったら応援しよう!