青春進化論
『お前たち、この学校にもようやくプールが出来たから今年の夏からプールの授業が出来るぞ。
一応前もって聞いておく。。。』
『プールの授業やりたいか?』
体育の授業終わりに先生からの質問だった。
こいつら強制的にプールの授業を組み込んでも全員素知らぬ顔で見学するだろう、と察して前もって生徒に確認を取った先生は賢い。
年頃の生徒たちは誰も手を上げず、(年頃の恥じらいというより、単純に面倒だから)プールの授業は無しになった。
我が高校には私たちが入学する前年までプールが無かったようだが、新しく建設されたらしい。せっかく公費で建設されたプールも授業で使わなきゃ無駄遣いじゃないか、と避難の目が向けられそうだが、前年まで水泳部は他校のプールを借りていたらしいから、まるっきり無駄になったわけでもない。
こんな感じでプールの授業は無くなった訳だが、水遊びをしている生徒はいたようだ。
ある日全校生徒集まる全校集会の中で校長先生がご立腹の様子で前に立った。
男子生徒二人が、ホースで水をかけようとするのを傘を差して防いで水遊びしているのを見た。高校生にもなってそんな幼稚なことをしているなんて。君たちは一体いくつなんだ。
と、すっかり呆れているご様子だ。
銀魂の神楽が自身の武器である傘を回してクナイを弾くように、男子生徒たちは水を防いだのだろう。
校長先生としては、いつまでも小学生のような遊びをするのではなく少しは大人になりなさい、と伝えるのが目的だが、生徒たちは目を輝かせた。
何それ楽しそう。
やってみたい!
次の日から花壇横に置いてあるホースと傘を持参した生徒たちが水遊びする姿が見られた。校長先生の有難いお話は、アホな高校生を刺激して終わった。
羨ましい、私たちもやろう!
流す曲はYUIの Summer songだ。夏と青春って感じを強調するんだ!
と意気込んでいたら、ホースが撤去され水遊び禁止になった。
当たり前の結果だ。
校長先生を始め先生たちは全体的に幼稚なイタズラや遊びが多いと私たちに呆れていたが何となく原因は分かっていた。
出身中学はとにかく規則に厳しかった。1%でも自分の中学校での志望高校合格率を上げるために、様々な規制をして勉強に向かわせるのが目的なのだろう。テスト期間中のホームセンターやスーパーへの外出はダメ、スカートはくるぶし丈、前髪の長さ、髪の色、下着の色、髪の結び方などなど、、、今話題のブラック校則てんこ盛りだ。だが、結局規制はその場しのぎで歪みはどこかでくるわけだ。
先生達にも事情はあったようだ。田舎に3つの大規模中学校があるが、中学校毎の先生方も争いがあるようでお互いの中学校を罵り合い、隙あれば自分の手柄のように中学校や生徒を自慢し合っている様子は生徒の立場から見ても霧の中を覗くぐらいうっすらだが感じられた。
高校受験という目標の為に勉強を邪魔する誘惑を規制して向かわせるのはいいが、ほどほどが一番だ。
小学校の教室に貼られているポスターにありそうな、人類進化の年表のように順を追って成長していなかければどこかで反動が出るのだろう。
なぜYUIの Summer songを流したかったかというと、PVにホースで笑いながら水かけする女子生徒と、また笑いながら傘で水を防ごうとする男子生徒の青春シーンに覚えがあったためだ。改めて見直してみるとそんなシーンはどこにもなく、かろうじて高校生カップルがホースで水を掛け合うシーンがあったので、水遊びが羨ましかった高校生の私が記憶の中で都合よく差し替えしたのだろうか。
梅雨明けはまだまだ。
YUIの Summer songを一足早く聴きたくなって流してみる。
意地悪だった青春。
あの頃にちょっとだけ戻りたい。
窓の外からは鈴虫が鳴く声。
夏はもうすぐそこまで来ている。
企画参加作品です。