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【納涼】ドブヶ丘名所案内その1・ドブヶ丘神社

ドブヶ丘基礎知識

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汚れた手帳

東京近郊のどこかにある汚染と悪地形の町、ドブヶ丘。私はその謎を探索する者だ。この町に来て、もう3ヶ月になるだろうか。ようやくこの町の汚染にも慣れてきたところだ。今日はこの町の名所、ドブヶ丘神社について集めた情報を書き留めておくとしよう。

私はこの話を最初に聞いて少し不思議に思ったのだ。天照大御神はどちらかといえば活発に動く女神ではない。むしろ引きこもりがちなのだ。また穢れにはめっぽう弱い。その上、部下には建御雷とか武闘派も随分そろっている。なぜかの女神がわざわざ退治に来たのか、この謎を解くため、私は早速町の人々(だいたい飲んだくれている。カップ酒を渡せば快く話してくれる)に聞き込みをすることにした。

「や、あまり知らないな」

「つうかその神社行ったことない。どこだっけ?」

「ははは、命知らずな坊主だな。あまり命を粗末にするんじゃない」

「あれは…知らない方が良いと思うわ」

「くるうておるのは貴様か俺か」

「しんでも知らねえぞ…バチあたりめ」

「んー…図書館で調べてみたら?まあまともな本は無いだろうけどさ」

「で、酒一杯だけ?いやー、それじゃ教えられないな」

「はじめて行った時はなんか異様な声が聞こえたな。怖くて逃げかえったよ」

「なあなあ、金かしてくれねえ?三倍にして返すからさ」

「いかないほうがいいよ」

「もっといいことしようよ、ね。10kで一晩どう?」

「つうか、あの神社妙に古くてな。この町の開発以前からあったような気がする」

「ところで何であんな神社に興味を?へえ、ただの好奇心?」

「おいおい…あそこだけはやめておけ」

「そうか…俺はそこまで詳しくないが、女神にでもきいてみたらどうだ?」

「ろくでもない場所だ。近づくな」

「しんじるかどうかはお前次第だけどよ…昔あの神社で行方不明になった奴がいるんだ」

「いやああああああああああああああああ!!!」(彼女は狂っていた)

「もう随分管理されてない神社だな…狂人か、化物かはわからんが危険だ」

「のっぺらぼうを見たとかいう話があるぜ。先日死んだヤク中の政が言ってた」

「ガッカリさせて悪いが、何もないぜ…ただの古い神社…いや、社だな」

「イーヴィルな奴がいる。だからデンジャーだ」

「ルールを守れ、この町のな。その神社に関する事はルール違反だ」

ううむ、困った。想像通りこの街の住人の胡乱な口からはロクな情報は得られなかった。最後に、『女神』と呼ばれている女性に話を聞いてみた。彼女はいつもの角の立飲みで、くだを巻いていた。私は彼女に神社の事を調べている事、そして新品の缶ピースとストロングゼロを渡し、尋ねてみた。彼女は、少し逡巡すると、おもむろに私の手帳を見て、ストロングゼロを開けた。

「横糸だけ見ちゃダメさ。縦の糸で見るんだね。運命はいつの間にかそろっているもんさ。それが悲惨なものであってもね」

やはり彼女もダメだったか。噂ではかなりの中毒者だそうだ。

「くう、やっぱりシケてない煙草はうめえわ」

上機嫌の彼女に背を向け、私は寝床に帰ることにした。豆電球の下で、この手帳をふと見直し、彼女の言葉を思い出した。

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この手帳はドブヶ丘神社門前の鳥居前に落ちているところを住民が拾ったものだ。手帳には乾いた血とドブヶ丘の汚泥ではない何か黒いべとつき酷く臭う粘液、そして何かの獣の毛が挟まっていた。