超マイペースで復学した不登校の子のすごさ
不登校支援に携わる中で、多くの生徒たちと出会いますが、時に心に深く刻まれる出会いがあります。
今回ご紹介するのは、当時は中学2年生のBさんの復学への道のり。
Bさんの事例は、「自分のペース」を貫くことの重要性と、それを支える周囲の理解の大切さを教えてくれました。
Bさんが不登校になったのは、中学1年生の3学期から。
きっかけは複合的で、学業のプレッシャーや人間関係の変化など、さまざまな要因が重なっていたようです。
当初は完全に学校から足が遠のき、家族も学校も、そして本人も困惑していました。
Bさんとの初めての面談は、不登校になってから何か月か後のことでした。
初対面時のBさんは、表情が硬く、言葉少なでした。
しかし、会話を重ねるうちに、Bさんの中に「学校に戻りたい」という思いがしっかりと根付いていることがわかりました。
ここで注目すべきは、Bさんの「自分のペース」に対する強い意志でした。
復学へのプランを立てる際、Bさんは自分の気持ちと向き合い、慎重に各段階の期間を決めていきました。
そのプランは次のようなものでした:
玄関登校:1ヶ月間
2時間目からの登校:1ヶ月間
午前中登校:1ヶ月間
1日登校
このプランの特徴は、各段階に明確な期間を設定したことと、その期間をBさん自身が決めたことです。
周囲の大人たちからは「もう少し短くてもいいのでは?ゆっくりすぎないか?」という意見もありましたが、Bさんは自分のペースを守ることの重要性を感じていたのです。
玄関登校の1ヶ月間、Bさんは毎日決まった時間に学校の玄関に来ました。
最初の頃は数分で帰ってしまうこともありましたが、少しずつ滞在時間が延びていきました。
この間、担任の先生や養護教諭が声をかけることもありましたが、Bさんが「今日はここまで」と言えば、それ以上の無理強いはしませんでした。
2時間目からの登校を始めた時期、クラスメイトたちは温かく迎えてくれました。
「もう教室に来ない?」「一緒に給食食べよう」と誘いの声もかかりましたが、Bさんは「今はまだ無理」とはっきりと断っていました。
周囲の期待に応えようとするのではなく、自分の気持ちに正直に向き合う姿勢が印象的でした。
午前中登校になると、学習面での不安が大きくなりました。
教科担当の先生方から「午後も残って補習しない?」という提案もありましたが、Bさんは「今はまだ午前中で精一杯です」と自分の限界をしっかりと伝えていました。
代わりに、家庭での学習時間を増やすなど、自分なりの対策を立てていたのが印象的でした。
そして、ついに1日登校が始まりました。
ここに至るまでに3ヶ月(プラス夏休み)という時間がかかりましたが、Bさんの表情は以前とは比べものにならないほど穏やかで自信に満ちていました。
Bさんの復学までの道のりで最も印象的だったのは、自分の意志を貫く強さでした。
周囲からの善意の促しや期待に対して、必要以上に応えようとせず、自分のペースを守り続けたのです。
「もう少しどう?」という問いかけに対して「無理です」とはっきりと答える姿は、時に周囲を戸惑わせることもありました。
しかし、その姿勢がBさんの着実な前進を支えていたのです。
周囲の声に応えるのだと以前の「良い子」に戻るだけ。
また行けなくなる確率が高いでしょう。
この経験を通じて、私たち支援者も多くのことを学びました。
特に重要だと感じたのは、生徒の「自分のペース」を尊重することの大切さです。
不登校の生徒一人一人に、それぞれの事情があり、それぞれの回復のスピードがあります。
Bさんのように、自分のペースをしっかりと把握し、それを守る力がある生徒もいれば、より周囲のサポートが必要な生徒もいます。
支援者として大切なのは、その生徒の特性や状況を見極め、適切なサポートを提供することです。
Bさんのような場合、むしろ周囲の大人たちが「待つ」ことを学ぶ必要がありました。
焦らずに見守り、生徒の意思決定を尊重することが、結果的に着実な復学につながったのです。
一方で、すべての不登校生徒がBさんのように自分のペースを明確に示せるわけではありません。
そのような場合は、支援者や教師が生徒の様子を細かく観察し、適切なペース配分を提案していく必要があります。
大切なのは、生徒一人一人の個性や状況に応じた柔軟な対応です。
Bさんの事例は、学校全体にとっても貴重な学びとなりました。
不登校の生徒を受け入れる際の柔軟な対応や、クラスメイトの理解と協力の重要性など、多くの気づきがあったそう。
生徒の意思を尊重することの大切さを、教職員全体で再確認できたことは大きな成果だとも言われました。
復学後のBさんは、以前よりも自己肯定感が高まり、自分の気持ちを率直に表現できるようになりました。
時には調子を崩すこともありますが、その際も「今日は少し休ませてください」と自分から伝えられるようになりました。
これは、復学のプロセスを通じて培われた自己理解と自己主張の力だと言えるでしょう。
不登校の問題に、一つの正解はありません。
しかし、Bさんの事例が示すように、「自分のペース」を尊重し、それを周囲が支えることが、持続可能な復学につながる重要な要素の一つだと考えています。
私たち支援者は、これからもこの視点を大切にしながら、一人一人の生徒に寄り添っていきたいと思います。
生徒が自分の力で前に進もうとするとき、私たちにできることは、その歩みを焦らず、優しく見守ることなのかもしれません。
Bさんの姿は、そのことを教えてくれた貴重な経験でした。