よく晴れた夏の日
地元に帰省している。私は大学生。
何にもないと言い切れないほどには何かがあるが、それでもやはり、何にもない。
電車に乗れば街に出れる。決まった距離を、ゆっくり往復するだけの電車によく乗っていたのは、高校生の時だった。私が生まれる前から人を運んでいた電車は、それまでは、私にとって縁遠いものだった。
どうして家の外に出なかったのだろう、と今になって思う。目が悪くなるほどに見つめる枠に、特別な魅力があったわけではないのに。飛び出せば、息がしやすいところが見つかったかもしれないのに。ゲームソフトを買うことに使われた5000円は、私には、もっと別の使い道があるべきだった。
見上げれば同じ空がある、なんて嘘だ。窓の外には、青い空と、白くて大きい雲がある。ここの空と、あそこの空は、どこか違う。
何か思い出さなければいけないことがある気がする。どこかに忘れ物をしている気がする。高校の机の引き出しに、何か入れたままかもしれない。
楽しくなかったはずの高校生活に、懐かしさや微笑ましさを向けている私は、まだ青春の中にいるのだろうか。もう、抜けてしまったのだろうか。トンネルのような、アーケードのような、イルミネーションのような。私は、昼間にイルミネーションのアーチをくぐってしまったのだろう。気が付くとあたりは暗くなっていて、振り返ると、ついさっきまでいたところが光っている。性格は、ずっと暗かったはずなのにな。
自分が言われたいことを、自分に言うみたいにして、他人に言ってしまったことがある。それも、苦しみの中にいる人に。救うふりをしながら、救われたいという本音を隠せなかった。今はどこの街にいるのだろう。生きているといいのだけど。
伸ばし始めた髭が急に似合わなく思えてきた。変化を拒まないでくれ、この体よ、この土地よ。
別に一人でもいいのかもな。私は。時々人と会えれば。
数年後、私はどこにいるのだろう。