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33.地味なトラスに隠れた挑戦ーポーランドのマウジツェ橋


スウドヴァヤ川に架かるマウジツェ橋

 「Most w Maurzycach(マウジッツェ橋)」は、ポーランド中部のズドゥニ市マウジツェ村にあり、スウドヴィヤ川に架かる田舎の地味な橋である。

 しかし、この橋はリヴィウ工科大学教授のStefan Bryla(ステファン・ブリワ)の設計による鋼鉄製で、欧州初の全溶接橋である。1928年12月に完成し、翌年8月に開通した道路橋である。

写真1 スウドヴァヤ川に架かる全溶接橋「マウジツェ橋

 「マウジッツェ橋」は、上部がアーチ状の曲弦トラス橋で、橋長:27m、幅:6.2m(車道:5.4m)、高さ:4.3mである。
 主桁は鉄骨の格子桁で、架橋時の路面は瀝青れきせい質であったが、現在は花崗岩の敷石が敷かれている。橋の耐荷重は30トンである。

写真2 スウドヴァヤ川に架かるマウジツェ橋

 「マウジッツェ橋」は、ブリワ教授がリベット接合橋として設計し、主桁のみを溶接構造とする計画であった。その後、ブリワ教授の指導の下で、Wenczeslaw Poniz(ヴェンチェスワフ・ポニシュ)が、上部構造を溶接接合に再設計し、リベットレスとしたシンプルな橋である。 

 1928年4月、ポーラント政府が「マウジッツェ橋」のために、アーク放電を利用して金属を溶かして接合するアーク溶接工事に関する仕様書を世界で初めて認定した。
 仕様書の中には、溶接継手試験体の引張強度が母材の80%以上、溶接金属の丸棒引張試験で伸びが18%以上、溶接継手部の180°曲げ試験でき裂が生じないことなど、機械的特性が細かく規程されている。

 ポーランド東部ミンスク・マゾヴィエツキに工場を持つ「Konstanty Rudzki i S-ka(コンスタンティ・ルツキ社)」が、製作・建設業者として選ばれた。橋の建設作業の多くは工場で行われ、溶接や仕上げ作業を含む組み立て作業が架橋現場で行われた。

 溶接工3人により、フラックスで表面を保護した鋼鉄製電極をアーク放電で溶かして母材同士を接合する被覆アーク 溶接法で施工が行われた。
 その結果、大幅な橋の軽量化と建設期間の短縮が実現された。実際に、初期設計のリベット継手を採用した場合、橋の重量は70トン以上であったが、56トンに削減され、橋全体の設置コストも大幅に削減できた。

写真3 マウジツェ橋の橋台と橋を支える支承部

その後の「マウジツェ橋」

 1968 年11月、ポーランドの文化遺産として登録された。1970 年代後半まで、欧州国道E8号線(現在の欧州国道92号線)で使われた。

 しかし、車道幅:5.4mと狭く、耐荷重:30トンと低いため、交通量の増加への対応が困難となり、1977年に国道の北側約20mの位置に移設された。元の場所には新しい道路橋が建設された。

  その後、1987年に橋床・橋台のコンクリート構造物の修理、1998年以降に橋体の防錆・塗装工事などの改修が行われた。

 2009 年、橋とその周辺は整備され、ライトグレー色に塗装された美しい姿をみることができる。2011年12月、ブリワ教授の記念碑が除幕された。 

リベット接合から溶接接合へのイノベーション

 鋼鉄橋の組み立てには、リベット(Rivet)接合が用いられてきた。接合する鋼材を重ねて穴を開け、リベット(びょう状の鋼鉄部品)を差し込み、リベットの反対部分をリベット・ハンマーで変形させて鋼材同士を固定する。鋼製リベットは、変形し易い様に事前に加熱して使われた。

 リベット接合の作業は比較的簡単で、「リベット継手設計法」が確立されることで信頼性を確保し、半永久的な接合方法として船舶など橋梁以外の鉄骨構造物にも幅広く使われた。

 しかし、リベット継手を採用するために構造が複雑となり、橋梁全体の重量が増す問題があった。重量の増加は橋梁の長尺化に大きな影響を与える。特に、鋼材の板厚が厚くなるほど、この傾向は顕著となった。

 一方、1885年に炭素棒電極を使ったアーク溶接法がロシアで発明されて以降、種々の電気溶接法が発明された。1907年には、現在も使われている消耗電極式の被覆アーク 溶接法がスウェーデンで発明された。

 溶接継手を採用することで、設計の自由度が大きくなり、橋梁構造の簡素化が可能となり、重量軽減工期短縮が進められた。ただし、溶接により鋼材が熱影響を受けるため、強度・延性の低下や溶接変形などの問題が生じるため、「溶接継手設計法」の確立が進められた。

 溶接継手の信頼性が向上したため、1950年代に入ると様々な形状に対応できる溶接継手が主流となる。同時期に、強度の高い高張力鋼製の高力こうりょくボルトの開発も進み、現在も現地での組み立て作業に使われている。

 図1 リベット継手から溶接継手へのイノベーション 出典:日本製鉄


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