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37.美しく蘇ったネオ・バロック様式ー東京都の四谷見附橋
明治時代に始まった「四谷見附橋」の建設
四谷見附とは、江戸城の外濠に設けられた城門のことであり、江戸城から甲州街道に通じる要衝の地であった。
明治時代に入り、東京市は区改正事業の一環として、この地に外濠と鉄道をまたぐ「四谷見附橋」の建設に1911年(明治44年3月)着手し、1913年(大正2年10月)に完成した。橋の東側は千代田区、西側は新宿区となる。
完成時の「四谷見附橋」は、橋長:34.138m、幅員:21.946m、支間長:34.138mの上路式鋼製の2ヒンジアーチ橋であった。当時の東宮御所(現在の迎賓館赤坂離宮)に至る橋として、ネオ・バロック様式の高欄や橋燈などで装飾されて景観の調和がはかられた。
橋燈の石台には工事担当者を記した銘板がはめ込まれており、東京市土木部の技師長日下部弁二郎、橋梁課長樺島正義以下、構造設計の川地陽一、装飾設計の田島穧造の名が記されている。
橋台は、隅部に白い花崗岩を算木積みとし、その他を煉瓦積みの外殻で覆う構成であり、アーチは茶褐色に塗装されていた。広幅の橋上には、1968年までは路面電車が運行されており、自動車/鉄道橋であった。
JR中央線の四ツ谷駅をまたぐ二代目「四谷見附橋」
1950年(昭和25年)、戦災復興都市計画事業により、新宿通りが25mから40mへ拡幅することが決定した。しかし、架け替え工事が始まるのは、1987年(昭和62年)を待つことになる。
1991年(平成3年10月)に、現在の二代目「四谷見附橋」が完成した。橋長:44.4m、幅員:39.0m 支間長:41.0mの鋼製のアーチ状方杖ラーメン橋である。片側3車線の広々とした道路/人道橋である。
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二代目「四谷見附橋」は、初代「四谷見附橋」のイメージを残したラーメン構造とされ、高欄や橋燈は可能な限り旧橋のものが再利用された。JR中央線の四谷駅のホームをまたぐ跨線橋である。
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八王子市の長池公園に移築された「長池見附橋」
1993年(平成5年11月)、初代「四谷見附橋」は東京都八王子市別所の長池公園へ移設され、「長池見附橋」として利用されている。
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「長池見附橋」は、橋長37.606m、幅員:17.4m、支間長:34.138mの上路式鋼製の2ヒンジアーチ橋である。幅員が少し狭められたが、往年の「四谷見附橋」の姿が美しく再現された。
高欄や橋灯など装飾部分は精巧な複製品であるが、橋体は四谷見附で解体された後、工場に運び込まれて補修され、仮組みした上で検査した後、長池公園で組み立てられ、1993年(平成5年11月)に完成した。
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「四谷見附橋」の移設工事について
移設工事は、川田工業が住宅・都市整備公団から受注し、主構造調査工事(1989年10月~1990年5月)、補修・架設工事(1990年11月~1993年3月)と進められた。その詳細は川田技報にまとめられている。
興味深い調査結果に、「四谷見附橋」に使われた鋼材は米国CARNEGIE(カーネギー)製で、切り出した試験片による強度試験で、JIS規格「一般構造用圧延鋼材:JIS G 3101」に規定される現在でも使用頻度の高い鋼種のSS400相当の強度であることが確認された。
また、経年損傷調査では、疲労に起因する割れやき裂は検出されず、腐食による損傷が主体であった。
腐食進行の著しい部位として、①支承部近傍のアーチリブ部材および床組部材、②雨水に直接さらされ易い最外側の部材、③各部材のコーナー部における局部的な腐食があげられており、工場内溶接による復元が行われた。
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さらに、現場工事では高力ボルト継手や溶接継手が使われたが、再建という主旨から、最近では使用されなくなったリベット継手も採用されたことは特筆に値する。
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