千葉ジェッツ成長の功労者の一人、小野龍猛との7年間
2013-14シーズン千葉ジェッツに加入し、7年間ともに戦った小野龍猛が、今オフ契約満了となりました。
インスタグラムでは「多くを語る必要は無し」なんて書きましたが、彼とのインスタライブでは2人で1時間以上バッチリ語らせていただきました(笑)
黎明期から成長期に差し掛かるジェッツに加入し、さまざまな苦楽をともにしましたから、語り始めたらどうしても長くなってしまうというものです。彼への感謝を込め、noteにも書き記しておきたいと思います。
第一印象は「ふてぶてしい男」
最初に龍猛と会ったときの話から順番に書いていきましょう。
2013年、当時の神作大介GM(現アカデミー/ユースチームリーダー)の繋がりを辿って補強を進めていた中で、トヨタ自動車(現アルバルク東京)に所属していた龍猛や荒尾岳に声をかけました。
龍猛は「ジェッツが最初に声をかけてくれたから決めた」なんて言ってましたが、当時は実業団チーム所属の選手にオファーするという発想自体あまりなかった時代です。心理的にもハードルは高かったでしょうが、"移籍してプレーする"という選択肢を最初に提示できたのが良かった。そして、クラブの熱も、ジェッツの試合を観に来てくれたときにブースターの熱も感じ、移籍を決めてくれました。
初めてちゃんと話したのは、船橋のフレンチレストランを貸し切り、チームみんなで集まったときのことです。私が少し遅れてお店に入っていったら、立食形式の中、龍猛が1人だけ座っていたんですね。私が近づくと立ち上がり、「社長、会ってみたかったっす」みたいな感じで来た(笑)
当時は現在より体重が10キロ以上重かったはず。197センチ110キロオーバーの大男がグワッと立ち上がってそんな感じで来たもんだから、なかなかすごい男だなと感じましたね。(え~! 俺、一応社長ですけど!)みたいな。
その後、それぞれ目標を叫ぶという流れになったんですね。そのときのジェッツは、bjリーグに2年間いて、次のシーズンはNBLにリーグ移籍するというタイミングでした。みんな「よっしゃ! 殴り込みだ!」みたいな感じ。龍猛も「日本一になるぞ、トヨタに勝つぞ!」とか言っていた。自分はトヨタから来たのに(笑)
しかしそのときから、"日本一"を意識していたんです。当時本気でジェッツで日本一になると思っていたのは、多分私と龍猛だけだったんじゃないかな。
ジェッツの成長とともに、プロとして成長していった
当時のジェッツは練習場も点々としていたし、観客数も今の3分の1くらい。選手もスタッフもみんなでチラシ配りやポスター貼りをしてました。合宿所などすべての設備が整っている天下のトヨタから、まだまだ脆弱なプロチームに移籍してきた龍猛は、環境に関しては相当抵抗があったんじゃないでしょうか。
ですが、だからこそ彼が一番プロ選手らしくなったと思います。お客様が来てくれることのありがたみ、スポンサー様のありがたみ、地域の方々のありがたみを本当の意味で理解している。クラブと一緒に成長した、まさに象徴と言える存在ですね。
NBL初年度はあの伝説の開幕4連勝後20連敗なんてこともありました。しかしNBL2年目は西村文男、ジャスティン・バーレルらを獲得し、トヨタにも初勝利。(シーズン5戦3勝)会社としてもうまく周りはじめた頃でした。とはいえ観客数は平均1,500くらいだったので、ビッグフラッグで席を潰しまくっていましたが(笑)
古巣トヨタに勝ったとき龍猛は荒尾と一緒に相当喜んだようですが、じゃあ次のチームでジェッツに勝ったら相当喜ぶんだろうなと思いますね。もちろん逆に負かして悔しがらせてやりたいですが、古巣となるチームにそういう思い入れを持ってくれるのは嬉しいものです。
それから観客数がどんどん増えて、会場の熱が高まり、演出も強化されていく中で、龍猛はプロ選手として"魅せる"意識も成長してくれたと思います。ブースターを煽るアクションは忘れられませんね。
そうそう、2014年は龍猛が日本代表に初選出された年でした。ジェッツが輩出した初の日本代表選手ですから、スポンサー様へのご挨拶にも連れて行って「ついにジェッツから日本代表選手が選ばれました! 小野龍猛です!」と自慢しまくりました(笑)
本当に我が子のことのように嬉しかったですよ。チームとして、クラブとして日本一になるというのも大きな目標でしたが、日本代表選手を輩出するというのも一つの夢、目標でしたから。もちろんスポンサー様も喜んでくれましたし、ジェッツのことをさらに自分ごととして感じていただけるようになった、ターニングポイントの一つでしたね。
日本バスケサイズアップの"パイオニア"
龍猛は元々パワーフォワードのポジションでした。しかしジェッツに来てから、スモールフォワード(通称"3番ポジション")で使われることが増えていったんですね。昔の日本バスケでは、身長が197センチある選手はパワーフォワードのポジションで起用されることがほとんどでした。
しかし、龍猛をスモールフォワードのポジションで起用すれば、相手選手はほとんどの場合身長が龍猛より低い。確実なアドバンテージを取れます。ジェッツにとって、龍猛を3番で起用できることは大きなストロングポイントとなりました。
今でこそ身長2メートル近い選手をガードやスモールフォワードで起用することは珍しくないですが、当時はちょっとしたパイオニアだったのではないかと思います。龍猛が相手選手を背中でグイグイ押していく光景、何度も見ましたよね。大きな選手がヘルプに来れば誰かが空くのでパス、来なければそのまま押し込んでスピンムーブからシュート。頼もしかったなあ。
キャプテンに向きではないが、絶対にキャプテン
NBL3年目、富樫勇樹や原修太が加入した年ですが、この年はうまくいかなかった。メンバー的には揃っていたんですが、チームがうまくまとまりませんでしたね。千葉ジェッツ初代キャプテンの佐藤博紀が引退したことで、この年から龍猛が二代目キャプテンとなりました。
彼がキャプテンになった経緯ですが、全然覚えてません(笑)誰が決めたんだっけ? もちろん私も話はしていたと思うんですが。
キャプテンとしての龍猛ですが、キャプテンだからといって別に何もしてないんじゃないかなと思います。具体的な指示をして、お前らこうだからこうするぞー、みたいなことを言うタイプではない。でも、キャプテンは龍猛しかいないという感じでしたね。キャプテンの重圧とか、責任を負うべきなのは龍猛だろ、という。本人もそう感じていたのではないでしょうか。
決してキャプテンに「向いている」わけではないと思いますが、でも絶対キャプテンは小野龍猛でしょ、となったのが面白いですよね。
Bリーグ開幕、そして天皇杯優勝
Bリーグ初年度、みんなワクワクしていましたね。リーグではチャンピオンシップで栃木に敗退となりましたが、天皇杯では優勝を果たし、"日本一"を獲ることができました。
この7年間で一番嬉しかったのは、私も龍猛も天皇杯初優勝のときでした。コート上で龍猛と抱き合ったとき「お待たせしました」と言ってくれた。泣けますよね。準優勝では意味がない、優勝でないといけないというのは、龍猛の口癖のような感じでした。
私と龍猛は「ジェッツで日本一になる」と言い続けてきました。観客動員数などの日本一は達成していましたが、天皇杯というタイトルを取ったことで「日本一のクラブです」と胸を張って言えるようになったわけです。だから最初の優勝は本当に嬉しかったですね。
リーグチャンピオンになれなかったのはもちろん残念ですが、2年連続ファイナル進出、天皇杯三連覇という結果は素晴らしいと思いますし、龍猛の果たしてくれた役割は非常に大きいものでした。
さまざまな苦楽をともにした戦友
ちょっとしたこぼれ話みたいなものをまとめます。
昔は選手をよくウチに招待して、食事やお酒をともにしていました。何を食べたいか聞いて、私のカミさんに作ってもらうわけです。基本、肉をリクエストされましたね(笑)
悩み事を聞いたり、家族も一緒に来てもらって、家族ぐるみの付き合いをしていました。こちらはジェッツの社長・会長で、龍猛は選手という関係性なわけですが、まさにファミリーで、戦友という感じです。
そういえば、龍猛は結構オシャレさんなんですよね。急に金髪になったときはビックリしました。意外と髪型や髪色、ちょこちょこ変えるんです。学生時代の写真見たらロン毛だったりする。なかなかの迫力です。
そして、選手の中でもとりわけ強いのがジャンボくんとの絆ですね。いつもじゃれ合っている二人を微笑ましく見ているブースターの方々は多かったのではないでしょうか。
龍猛は次のチームのマスコットとも仲良く遊んでいそうですが、ジャンボくんは結構嫉妬深いですからね。こちらのホームゲームに来たときは、またジャンボくんとも仲良くしてほしいです。
ちなみに、龍猛の自宅にはバンビシャス奈良のマスコットであるシカッチェのビッグぬいぐるみがあります。(インスタライブでも登場しましたね)これ、私がプレゼントしたものです(笑)
私がBリーグのバイスチェアマンを兼任していた時代、シカッチェを船橋アリーナに招待したんですね。物販も出してもらって売れ行きも良かったようですが、一番大きなぬいぐるみは価格も相応でさすがに売れ残ってしまい、私が買って車の助手席に乗せて帰りました(笑)それを龍猛にプレゼントしたというわけです。
去っていく選手に対して、なぜこのように振る舞えるのか
ジェッツのホームページではコメントが出ていますが、インスタライブではまたちょっと違うことを言ってましたね。
温かい声援をありがとう、でも、さらに一体感を持ってもらえると、もっと素晴らしい雰囲気ができるのではないか。初めて来てくれたお客さんも巻き込める、相手チームにとって嫌なアリーナになるのではないかと思います……というようなことを。
要は迫力が足りん! と捨てゼリフを残したわけですから、こちらとしてはとてつもないブーイングで迎えなければいけませんよね(笑)フリースロー打つとき手が震えるくらい。ぜひ龍猛にこのセリフを取り消させましょう。
さて、実は先日、富樫のお父さんから電話があったんですね。インスタライブをご覧になっていたそうで、「去っていく選手に対し、ファンとの交流の場を作り、笑顔で話せることは素晴らしいなと思った」と言っていただきました。
もちろん、選手契約というのはシビアなものです。契約を更新しないとなれば、にこやかにお喋りするというのは難しい部分もあるでしょう。ましてや、契約満了の発表後にクラブの会長とインスタライブをするというのは、他のスポーツも含め前代未聞かもしれません。
しかし、それもジェッツの個性であり、強み、魅力であると思っています。チームとクラブが一体となっているからこそ、全員の相乗効果を起こせる。それを体現してくれたのもまた、小野龍猛であるということです。
来シーズン以降は、相手チームの選手として龍猛と会えることを楽しみにしています。龍猛がまだどのチームに加入するのかわかりませんが、ジェッツのブースターのみなさんは、龍猛がどこに行っても応援してほしいです。
そして、加入したチームのブースターのみなさんも、龍猛をよろしくお願いします! 身体は大きいですが、意外と寂しがり屋で、なによりいいヤツです。
小野龍猛は、私にとってもジェッツにとっても特別な選手です。7年間の活躍、本当に感謝しています。