真夜中の自動販売機はチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の夢を見るか
深夜は、
3次元のルールも見張る者がいなくなるような気がして
天と地が仲良く手をつないで駆け出したり
壁という壁が柔らかいヨーグルトのようなものになって
空中をマンタのように泳ぎだしたり
柱や電柱が列を作って、生き物の背骨になる夢を見るかもしれない。
ビルはレゴのようにバラバラになっては別に何かになろうとする、
器であることを放棄し、アイデンティティに貪欲な怪物と化す。
優しい家は船になる。
優しくない家はパタパタと展開図を開いて鳥のように飛んで行く。
町中にポイ捨てされた空き缶達は己の内部を宇宙の外側とリンクさせて
「中」と「外」の概念をくつがえす。
我々はすっかり空き缶の内部の世界に閉じ込められている。
海は進化と絶滅と退化と興味本位の進化の実験を繰り返して
変な生き物がどんどん増えて行く。
クジラの背骨は松の木になって月と恋をし、地球の暗殺と駆け落ちの計画を練る。その結果、命をおとすクックロビン。
2068年に打ち上げられるであろうロケットには南米の子供達の宝物が、タイムカプセルとして積み込まれており、サッカーボールやお人形やカブトムシなどが空き缶の外側に出てゆくことでしょう。
宇宙の外側の生物とコミュニケーションをとったカブトムシがこの星のことをつたえ、「地球?知らないね」と言われ、非常に孤独な気持ちになるかもしれない。その気持ちをくんだ宇宙人がどうにか地球にかえしてやろうと用意してくれた高速ロケットに乗り込んだカブトムシが、時空を逆戻りしてそろそろ横浜の路地裏あたりの空き缶からモソモソ出て来るかもしれない。
そういうわけで、深夜の空き缶の中は外とつながっているから
うっかり飲み込まれるとどこにとばされるかわかったものではなく
非常に危険であるが、冒険家ならば孤独な時空を超え続けるのもよかろう。
どうぞ良い旅を。