945円
春。繁忙期の午後。姉からの電話。
昨年の冬から連絡が取れず、行方不明だった父が見つかった、という連絡だった。
だが既に亡くなっていた。
死因は分からない。
小学生の時。
よく父と2人でボール遊びをした。
誕生日でもクリスマスでもないのに、ゲームや漫画を買ってくれた。
中学生の時。
部活で帰りが遅くなる日は必ず迎えに来てくれた。
塾の送り迎えもしてくれた。
週末の試合も観に来てくれた。
でも、学校に行かなかったから、毎朝殴られたり髪の毛引っ張られたりもした。
高校生の時。
両親が離婚した。
私は母について行ったため、これ以降の父の生活はよく知らない。
半年に1度くらいの頻度で、一緒にご飯を食べるようになった。
遺体の腐敗が進んでいたため、顔を見ることなく火葬のみだった。
目の前にある骨を骨壷に移す。
しっかりした骨。
歯の矯正は燃えずに残っていた。
帰宅後、アルバムに残っている父の写真を見返す。
確かにそこにいた父は、もういない。
ただの骨になった。
行方不明ではあったが、何となくどこかで生きてはいると思っていた。
連絡は取れなくなったが、何となくどこかで生活していると思っていた。
父が死んだ。
人が死んだ。
悔しかった。
父ともっと連絡を取っておけばよかった。
父に仕事頑張ってるよって自慢すればよかった。
父ともっと映画の話がしたかった。
後日、父の妹から945円もらった。
父の財布の中に入っていた小銭。
父が持っていたもの。
父のお金。
最後のプレゼント。
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