私は「語らない人」に。あなただけの花を届けるためにiCONOLOGYがやめたこと。
どうも10YCです。
今回は1/19に配信した10YC Podcast#16の書き起こしを公開。
iCONOLOGY加藤千尋さんをゲストにお招きしての2回目です。
10YC Podcast #16 私は「語らない人」に。あなただけの花を届けるためにiCONOLOGYがやめたこと。
話し手:加藤千尋(iCONOLOGY)、下田将太(10YC)、岡山史興(70seeds)
聴きながら読んでもいいし、聴けない人は書き起こしだけ読んでもいいね。
それではどうぞ!
過去の回はこちら >
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下田「10YCのポッドキャスト、今日も始めていきたいなと思います。引き続き、パーソナリティは岡山さんです。よろしくお願いします。」
岡山「よろしくお願いしまーす。」
下田「ゲストも前回から引き続き、iCONOLOGYの加藤さんです。よろしくお願いします。」
加藤「よろしくお願いしまーす。」
下田「前回はね、刺繍の話とか、iCONOLOGYの立ち上げのときの話を聞いたんですけど。僕が最初に思ったのは、『なんで花だったんだろう』みたいなところ。ブランド立ち上げるときに、どうやって決めたか、とかあるんですか。」
加藤「そうですね、最初はクラウドファンディングで出すときに、お花のイメージと『こういう人格の方に着ていただきたい』っていうのを、私から発信してたんですよね。『アイリスはこういう花言葉がありますよ。イメージは、しとやかで知性のある女性ですよね』とか、そういう感じのことを結構Twitterでも発信してましたし、クラウドファンディングのページでも、私の考える花の印象を全面に押し出していた時期があったんです。1回目に商品を送るときには、私が考えるそのお花をイメージしたショートストーリーをつけたりしたんですよ。」
下田「あぁ、なるほど。梱包して送るときにってことですよね。」
加藤「そうです。文章を考える方と一緒に、アイリスのお洋服を着ている人をイメージして、『彼女はこういう人だよね』っていうのが分かる物語を一緒に送る。でも、それは最初でやめたんですよね。届いたお客さんの声を聞いて、別に私の考える人格の人だけじゃないなって気が付いて。私は『アイリスは、黒髪で強めなイメージの人が着る』とか、そういうことを考えてたんですけど、もういらないなと思って。
お客さんの、花との思い出とか印象って本当に人それぞれで、それが強い印象の花だなって思う人もいれば、優しいイメージの花って考える方もいるだろうし、それはもうその人のパーソナルな部分で決まってくる。私が『こういう人』と規定しないほうが自由に着てもらえるなと思ったので、今はお花の名前だけ入れて。」
下田「超おもしろいですよね。僕らも、自分たちが作りたいものを作る!みたいな感じで、最初『10YC始めました。自分たちのライフスタイルと好みに合ったものを作ります』っていう感じだったんですよ。ただ、その域を脱すると、お客さんから『こういうのも作ってほしいよね』とか、『ここ、こうしてほしいよね』みたいなのが来るじゃないですか。さっきの話だと加藤さんは『実は人格も受け取ってほしい』と思ってたけど、『それは違ったよね』って意見が来た時に、簡単に受け入れられました?」
加藤「そうですね、まぁ否定されたわけじゃないんですけど、なんだろうな。届いた方の感想をTwitterとかで見ていて、どういう方がこれ買ってくださったのかなと思うと、私がイメージしていたのとは全然印象の違う方だったり。でも、大切そうに『これ、すごく私の大好きなお花で』と言って着てくださっているのを見ると、私が規定するんじゃなくお客さんに委ねちゃったほうが、それぞれの楽しみ方をしてくださるので、私はもうお花を売る人になろう、みたいな感じで(笑)」
下田「なるほど(笑)わぁ、いいなぁ。」
岡山「めちゃめちゃいい話ですね。」
加藤「みなさんそれぞれの思い入れやストーリー、あるいは『ただ綺麗だったから』とかでもいいから、“自分なりの理由”を持って着てもらえれば、もう私はそれでいいなって思いました。」
下田「ちょっと嫌な話になるかもしれないけど、ものづくりしてる人って『自分たちが作ったものを届けたい』ってなりがちじゃないですか。『それ以外はダメだ』みたいなのが、今ファクトリーブランドがうまくいかない理由かなとも思ってたりするんですよ。この話していいのかな、いいですか、岡山さん。」
岡山「どうぞ(笑)」
下田「はい(笑)」
加藤「(笑)」
下田「作り手の想いってすごい素晴らしいなって思うし、最近いろんなウェブやSNSで情報が出せるようになって素晴らしいなと思うんだけど、それでもやっぱり着る人とのコミュニケーションとか、着る人にとってどんな服になるのかみたいなバランス感覚ってめっちゃ大事だなって思ってるんですよね。」
加藤「そうですよね。それはすごいありますね。これはだいぶ前に『あぁそうだな』って思ったんですけど、私がクラウドファンディングやった当時って、『作り手のストーリーを語れ』みたいなブームじゃないですけど、作り手の想いとか、どうやって苦労して作っているか、いかにこの技術が希少か、とかの『裏側を語りましょう』みたいなところがあって。
もちろん、それで『このお洋服を作った人の想いがすごく熱くて』って買ってくださる方もいるんですけど、そうじゃない人のほうが圧倒的に多いんですよね。『私がこれを着たいから買う』っていう。作り手の熱い想いとか技術がどうのこうのじゃなくって、もっと『私がこれを着たい』っていうのが一番シンプルで、でもお洋服を着る動機で一番大切なところだなと思って。」
下田「うわぁ、すごいわ。もともと10YCはプロダクトアウト側で生きてたんで、そこからやっていくうちに『それってお客さんにとって大事なことじゃないな』みたいな感じに若干シフトしていったんですけど。すごい早いな。」
一同「(笑)」
岡山「それはやっぱり、あれじゃないですか。さっきのお花の話然りで、お客さんからのフィードバックというか、『お客さんにとって花ってこういう役割だったんだ、こんな価値があったんだ』みたいなことに触れる機会がすごく早かったからっていうのがあるかもしれないですよね。」
加藤「そうですね、すごくそれはあります。TwitterやDMで、いろいろなところから感想をいただいたり、もっと個人的な思い出に関わるところを私に直接メッセージくださったり。そういうのを見てると、やっぱり『あぁ、なんかもう私が私が…じゃない世界だな』って。
iCONOLOGYはもう“みなさんのiCONOLOGY”で、私はモチーフを提供するだけで、これをどのように受け取って、どのように着ていただくのかも、お客さんに決めていただければ、という形で。そうですねぇ(笑)」
下田「そうですよねぇ。だから関わり合うことがまず大事だなぁ、と僕は思うんですよね。工場さん、ていうか、『工場さん』って呼び方もあんまり好きじゃないんですけど、作っている現場の人たちが、このブランドをやってなかったらたぶん『刺繍の本当の意味とは』みたいなところに気付かなかったかもしれないじゃないですか。」
加藤「あぁ…。」
下田「いや、分からないけど、今回は花っていうものを自分のブランドやったからこそ、パーソナルな刺繍の意味に気付いたのかもしれない。普通に刺繍を作業として、『作業』って言い方もよくないけど、頼まれたものを納品してるだけだと、結局『私たちの刺繍がどんな形でお客さんに届いてるか』ってあんまり分からなかったかもしれないなってちょっと思ったかな。」
加藤「そうですね。下請けの仕事っていうのは、お客さんが見えない世界なので。工場さんやメーカーさんがブランドをやる際に、独自の技術やそこにしか無いものがあったら、もちろん押し出していくべきだとは思うんですけど、それを買うか買わないかについて最終的にジャッジするのはお客さんなんですよね。いいか悪いかっていうか、欲しいか欲しくないかっていうのも、お客さんがジャッジするところなので。まぁ、なんだろう、自己満足しない(笑)」
下田「そうですよね。今、自己満足なんですよ。まぁ自己満足って言い切るのは良くないけど、自己満足な部分ももちろんあって。その辺のバランスが取れると、もっと良くなるんじゃないのかなって思ってますけどね。」
加藤「そうですね。まぁ難しいんですけどね。買ってくださる方がいて、しかも感想をきちんと届けてくださる方がいるからこそ、私も気付けたんですけど。お届けしっぱなしでフィードバックが何もない状態で、『買ってくださったからまぁ売れてるだろう、喜んでくださってるだろう』っていうだけだと、実際にどうやって着てくださってるかとかは解りづらいところはあるかもしれないですけどね。」
下田「うんうんうん、たしかに。」
岡山「さっきの作り手さんの話で言うと、iCONOLOGYで一緒に商品を作っていこうってなったときに、『これはお客さんにも価値が伝わりやすいな』って思うものと、『すごくいいものなんだけど、お客さんにはそのまま伝わらないな』っていうものとがあったりします?」
加藤「私のブランドの中でってことですかね。」
岡山「そうですね、作り手さんと一緒にやっていくときに、作り手さんの『ここはすごくいいんだけど、もうひと手間、例えば見せ方の工夫とかをしていかないと、うまく伝わらないかもなぁ』って思う部分だったりとか。」
加藤「来年から取り組みたいと思っていることがあって。それは生地をグレードアップするというか、国内の産地の生地を使っていこうと思って、今ちょっとずつ動いてるんです。そのときに、生地の良さって『すごく肌触りがいいんです』とか、『密度が高いんです』とか、『素材がカシミヤで』とか言っても、SNSで伝えるときすごく難しさはあるよなっていうのはあって。」
下田「うん、めっちゃ分かる。」
加藤「今までのポリエステル素材を使わせていただいてたものと、新しい生地との差が私は見せ場だと思っているんですけど、それをSNSやネット上でどうやって伝えていこうかなっていうのは、もう悩みに悩んでいるというか(笑)。
そこにおける『なぜその生地を使うに至ったか』っていう文脈と、それにプラスしてビジュアルなんですよね。これはもう完全に刺繍の強みなんですけど、見た目がすごくパッて刺さってくる要素があるので、それをきちんと相乗で乗せてあげて、『欲しい』って思う引力みたいなものを作らなきゃな、と思ってるんですよね。
こちらが生地の良さを一生懸命語ったところで、結局ビジュアルで見たときに『ふーん』って思われたら、すぐスワイプしてどっか行っちゃうじゃないですか。まずちゃんと指を止めてもらうためのアイテム作りをきちんとやってあげないと、せっかくの生地も埋もれてしまう、と思いながら(笑)その辺はこれから頑張っていかなきゃいけないなって思ってるところです。」
岡山「たしかに、そうですね。『この生地を使ってるからこの表現ができる』みたいなことが分かりやすくあるなら別ですけど、そこは伝わりにくいものなんですかね。」
加藤「SNSで買い物するときって、やっぱりまずはビジュアルを見ているんですよね。プリントの柄を見て『あ、こんなモチーフが入ってて好き』とか、そういう感じで買うことが多い。もちろん素材が好きって人も結構いるんですけど、ドアップで無地の生地の画像で並べても、やっぱりちょっと地味ですよね。なので、生地の魅力ももちろんしっかり伝えていくべきなんですけど、お洋服になってそれを伝えるビジュアルまで含めて情緒のある魅力的な仕上がりを目指さないと、生地まで目がいかない人のほうが多いと思うんです。生地が大好きな人には刺さるけど、そうじゃない人にはたぶん刺さっていかないなって思ってて。私はどちらかというと、『あんまり生地で見てこなかったけど、これはちょっと着てみたいな』っていう層にもきちんと届けたいなっていうのがあって。」
下田「どう見せるかってことですね。」
加藤「どう見せるかですね。それはめちゃくちゃ考えますね。」
下田「いやぁ、そうだよなぁ。その通りだよ(笑)」
加藤「(笑)生地が一番難しくて。縫製って、撮影の仕方によっては綺麗なのが分かるんですよ。例えば、ピッチがめっちゃ細かいとか、角がすごいしっかり出てるとか、ドアップで撮っても美しいっていうのが伝わりやすい。」
下田「あぁ、そうか特にね、作ってるものがワンピースとかだから、シルエットがどう出るかは結構大事なのか。」
加藤「そうですね。仕様とかも、ギャザーやシャーリングが寄ってるとかは、パーツごとに撮って美しく見せることができると思うんです。
生地単体は、ほんっとに難しい。柄が入ってれば別かもしれないんですけど、私は刺繍を入れる前提でやってるので、扱う生地は基本的に無地なんですよね。その良さを伝えるには、もはや写真を撮るだけでは追い付かない。たぶん動画とか、実際に着てもらって触って確かめてもらう機会がないと。完璧に伝えるためにはネット上の写真だけではもう無理だなって思って。」
下田「確かにまぁ、一番大事なことじゃない気はするよね、確かに。」
加藤「そうですねぇ。」
下田「しかも生地ってそれなりにバリエーション豊かだけど、機能とかの話になると誰でも使えるっていうか。発売したときは『すごい機能です』って謳えるんだけど、他のブランドも同じような物を使ってきたら、同質化してくと思うんですけど。
やっぱりいいなぁって思うのは、すべてが組み合わさってる感じが綺麗ですよね。iCONOLOGYは素材と刺繍と形、デザインが組み合わさって唯一化してる、みたいな話だと思う。だからね、あんまり一個一個のことを追い求めてくっていうものでもなさそうな気はするけどね。」
加藤「そうですね、トータルで見て。お洋服ってトータルバランスですしね(笑)」
岡山「(笑)」
下田「そうそう。なんかすごいわ。なんか勉強になるわ。」
加藤「(笑)刺繍が主張しすぎたら、ただの舞台衣装になっちゃうんで。」
下田「そうか。」
加藤「その辺のバランスが本当にあるんですよね。いつもデザインを考えるとき、もちろん刺繍から考えるんですけど、『この花ちょっときついな』って思ったらサイズを縮小してみたり、お洋服全体で見たときに刺繍がどのように見えているかはすごく考えますね。」
岡山「それもやっぱり、刺繍っていう自分のアイデンティティありきですよね。刺繍から始まって他のことも考えて、結局は刺繍があるからこそなんだろうなっていうのはすごく伝わってきます。」
加藤「そうですね。最初は『この業界は本当に大変だなぁ』と思っていたんですけど、使い方次第というか。見せ方次第で、どんなに小さい工場でもお客さんにいいねって言ってもらえるものが作れるなっていうのは思います。」
岡山「なるほど。よく10YCでもTシャツ着れば、肌触りとか、こだわってるポイントが分かるっていう話をよくするんですよ。でも、やっぱりそこに触れてもらうまでのハードルって意外と高くて。今回、そこの伝え方やお客さんとの関わり方、見せ方や魅力の引き出し方とか、すごく参考になるお話が聞けたなぁと思いました。」
下田「そうだねぇ。どう見せるかですよね、やっぱり。」
加藤「10YCは逆に、1回着たらた続いていくんじゃないですか。最初にタッチしたらもうやったー!て感じ(笑)」
下田「そうなのかなぁ(笑)そんな感じかもですねぇ。」
加藤「1回着て、『あぁ、全然このブランドの服ダメだ』って人いないと思うんですけど、それっていいものなので、絶対的に。」
岡山「そしたらアレですね。iCONOLOGYの刺繍でガッと惹きつけて、10YC着てもらってっていうのが、うまく組み合わさるとめちゃめちゃ強いんじゃないですか。」
下田「そうですね、とりあえずうちの商品に全部刺繍しましょうかね(笑)」
岡山・加藤「(笑)」
下田「iCONOLOGYさんに協力してもらって(笑)」
加藤「刺繍のTシャツを作るってなったら、10YCさんに入ってもらう…」
下田「やめたほうがいいと思うけどなんて(笑)いや、ありがとうございます。ありがとうございます。ぜひ、よかったら、はい。」
加藤「(笑)」
下田「おもしろいですね、こういうブランドの話ってなかなか聞く機会もないし。それこそね、現場やりながらブランド作ってる人ってなかなかいないんで、この2回いろんなことが聞けてよかったなぁと思うし。
10YCでも、最近チーム向けで作ってくれるお客さんとかもいるんで、そういう刺繍の話もまた今度聞けたらいいなと思っています。この2回はiCONOLOGYさんの話を聞きました。楽しかったですね。」
岡山「楽しかったです。」
下田「まだ話し足りないことありますか?大丈夫ですか?」
加藤「あ、全然。ありがとうございます。」
一同「(笑)」
下田「じゃあそういう感じで、iCONOLOGYの加藤さんの2回目終わります。また引き続き10YCともども、よろしくお願いします。」
加藤「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
下田「ありがとうございましたー。またお二方、よろしくお願いしまーす。」
岡山「はい。」
加藤「ありがとうございます。」
岡山「ありがとうございましたー。」
下田「ありがとうございましたー。」
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