降りるひととして
100本の指でピースをつくったら結局やっぱりピースとちゃうのん
2時間でゆける景色のほとんどはわたしの眼で追いつけるパノラマ
5つだけ残ったグミは5つともあなたの好きなくまのかたちだ
ひじょうしき 敷いて座っている阿呆、敷いて歌って踊って阿呆
ギョロギョロとよく動く眼を縫い縮められて世界がここに決まった
置き手紙ばかり書いててほんとうに手渡すことをしてこなかった
この傘を抜くことが出来た者だけがほんとの勇者 (バーチャルリアリティ)
重力に抗えなくて東京のメリー・ポピンズ 傘は杖にする
吸殻を目印にして辿り着くお菓子のいえ、じゃなくてここは、
オゾン層宇宙から剥がれ落ちてきてわたしの眼鏡を曇らせている
見も知らぬ赤の他人にわたくしの羽がない背中向けて並びおり
卵から生まれるような音させてがた、こと、にんげん車から降り
いつまでも本番にならぬ舞台では噛んでも病んでも許されている
とめどなく流れるものをとめたくて新聞折り込みチラシを破る
天井に花火ばかりが打ち上がり星座の意味は聞かれなかった
「溌剌」を生で食べたい 新鮮なハツラツ、ハツラツ、鍋底にあり
まだ寝てるセミのかたちで丸まって花粉の時期をやり過ごしたい
はじめての口紅 あの頃間違えて食べてしまったあかいろの味
太陽を跳ね返してまで存在をアピールしてくる無数の指紋
わたしには見えないなにか嗅ぎ付けて散歩の道がわたしまで来る
たくさんの骨格のよいひとたちがアスファルトを耕して咲く花
追いかけることの出来る幻のひとつとして割れてゆくシャボン玉
日光を遮断されてたはずなのに鞄のなかの目薬ぬくい
どんぐりも松ぼっくりも落ちてない春の影踏み鬼ごっこしよう
女という代名詞をば反芻す はまってゆかない鏡の破片
風向きを調べるために親指にあなたの最初のなみだを落とす
メデューサのような魔法を与えられ見るひと見るひと大人になった
涙食う 幻の味はしなくってただ塩分の少ないお水
持っている磁力が強い磁石から順次溶かして地球に流す
初恋にはさみを入れる美容師の顔がけっこうイケメンですね
食物繊維のような絆で繋がって食物連鎖はわたしへまわる
警備員巡回強化中につき星に願いは叶えられません
バッテリー長持ちアプリをたくさんのつむじにインストールしますね
歳を取る ジャングルジムで迷ったらひたすら下へ、下へゆくこと
ぽってりと広がる暮らし なんねんもへいわなくらし 満ちては乾き
前頭葉あたりで結われた髪の毛の泉のように湧き出す髪の毛
定期券かすれた日付を凝視する 晴れる明日を永遠に待つ
わたしからもっとも遠い赤として遠赤外線踏んで暮らした
エアコンの風が当たらぬ側にいて異常気象をものともしない
短めの枝毛から咲く絡まった細胞、細胞、花束にして
たいていのハート型なら真ん中で割るのが一番効率がいい
先頭で腰に手をあて待っていた 並んでるひとは見たことがない
独房 という文字を読む ひと房の独り分にも満たぬ感情
頬杖をつける頬あり どこへでも先立つものに添えられる肘
切り株のように置かれて新しいごみ箱のなかの新しいごみ
水を得た魚がびちびち跳ねすぎて地上の色に染まる星々
君の爪の甘皮と同じ色で咲くさくら散るまで仲良くしよう
放射線状にひろがる溜め息の行き着く先としての終点
音姫と消臭スプレーまとったらわたしらしいわたしらしくなさ
紙粘土ばかり集まる 満月になる三日月にあげるものとして
持ち手にはカーブが適切 吾の上に適切なカーブ見出だせぬまま
黒い湖面 電源が切れたスマートフォン 映し出される主としての我
沈むべきアイスクリームが見つからず手持ち無沙汰の手のウエハース
それぞれのあたまの位置を携えて階段状に沈むエキナカ
メタリック・シンドロームで肥えて肥えて、玩具のような目玉がうなる
食紅で塗った赤です 夕暮れが差し込むケーキにやっぱり夕暮れ
窓際に座ったときの忘れ物 ぬるいカイロのような魂
右側のことしか知らない右顔にニューワールドを、左向け左
初めてをおざなりにするとお辞儀する角度が微妙にゆるくなるわよ
三日目に薬になった植物は今も光の夢を見ている
独り言投げ込む旅に出ていった傘の太郎をご存知ないか
一晩中湿っていたの?乾燥が激しい世界に打たれていたの?
合格をしたひとたちの鮮やかな笑顔を前にひるむつり革
泣きべそをかいた窓からこぼれ落つ半分の景色、半分の世界
入り口と出口同じで降りるひととして肩身を狭くして出る
ツイッターで#7days100tanka というタグが流行っていたので、2017年3月15日から、3月21日まで、挑戦していました。そのうち何首かを削り、ここにまとめました。100首は、とても難しかったですが、素振りのようにひたすら三十一文字に取り組むことが出来たので、わたしはチャレンジして良かったなと思っています。
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