10弦ギターに、恋する
…一目惚れしました。恋の池に落ちたのです。しかしソレは、底なし沼でした──
───父によってなかばなしくずし的に始めたクラシックギター、初めて使った教本は「ギターのABC 新しいギターの学び方」(1964・三木理雄著・音楽之友社)。当時のスタンダードな教本で、一番最後にアルハンブラの思い出が収録されています。この曲目指してガンバレ!という意図が込められていたようです。
…この本だけを頼りに、まずは独りでギターを弾きはじめました。いまのような動画もなにもありません。それでも中学生になると、ヤ◯ハの音楽教室に通うことになりました。
が、しかし。
…おそろしいことに、ここまでマトモにクラシックギターを聴いたことがなかったのです!
当時ウチにはパイオニアの真空管ステレオコムポセットがあり、父がよく夜にレコードをかけていました。当時日本で大流行ったアルゼンチン・フォルクローレやフラメンコ、それと少しのクラシックでした。その中から聞こえてくるギターの音は、南米系のナイロン絃ギターとフラメンコギターがほとんど。フォルクローレギターやフラメンコギターとクラシックギターとでは、楽器自体のつくりも違えば弾き方も違うし(弦はほぼ同じ)、そのサウンドもだいぶ違うものです。当然、演奏される曲もまったく別物です。このあたりのくわしいハナシは、おいおい記事になるでしょう。
そもそもウチには、一枚もクラシックギター音楽の音源(レコード)がなかったのです。ちゃんとしたクラシックギターの音も音楽も聞かずして練習していたという、信じられぬ暴挙です。その後見るようになったNHK教育テレビの「ギターをひこう」だけが、唯一の音源だったわけです。しかも当時のテレビの音ときたら…(これが沼落ちの伏線となります笑)。
…そんなこんなある日、父が「これを聴け」と買ってきたレコードが、ナルシソ・イエペスの「アルハンブラの思い出」と「アランフェス協奏曲」でした。このレコードのジャケットは表も裏も、イエペスが10弦を弾いている写真です。こりゃどうせんでも、このレコードは10弦ギターの演奏であると、ふつうおもうでしょうガ?
さっそく針を落とすと、豊かな低音、ハリと艶のある高音が響き渡り、おおっ、これが10弦ギターの音か!これまで聴いてきたギターの音とまるで違うではないか!!と、父も小生もすっかり10弦ギター(とおもわれる)の音に心酔してしまいました──
小生は、まずジャケットで一目惚れ、そしてそのレコードサウンドで完全にマイりました。それって、SNS上のプロフ画像に一目惚れ、そして彼女の肉声(と偽装されたデジタル合成音声データ)でもう恋沼完没…ん?なんだか、いまおおはやりのロマンス詐◯になんか似てますナ。
しかもそれだけでなく、なんと「アルハンブラ~」のレコードには、収録されている全曲の楽譜とくわしい解説まで付属していたのです!(※)
ここまできたらもう、これを手本にする以外はございません──SNSのプロフに熱烈長文な恋文的テキスト(AIが書いて音声読み上げされたもの)が付いていたようなものです──これで落ちない男はいませんでしょう。いやオレはそんなことないと自信ありげなアナタ、特殊詐欺にかんたんに引っかかる「オレはゼッタイにダマされない」族と同じですヨ!
音楽教室の方は、半年通って締めの発表会(グループ演奏)に出た後、グレード進級試験に落ちてしまったのでやめてしまいました。以後、レコードと付属の楽譜(と「ギターをひこう」)だけで独学していったのです…
…けっきょく小生は、この「お相手」に30年近くダマされ続けたわけです。まあ、今なら、そんな独学なんかするからアタリマエだの◯◯ッカーと遠慮なく叩かれようというものですが笑。
※記事見出し画像がその一部。さすがに半世紀以上経て、さんざんご愛用したので、こんなありさまですが…小生にとっては、もうバイブル同然でしたネ笑。
とはいえ。
「いまや音楽は聴くものではなく、見るものだ」と、かのガガ様が言及されたそうですが、それがほんとうなら、見た目から入ったのは、ある意味時代を先取っていただったといえましょうか?
しかしながら、それがゆえに結局袋小路に陥ってしまい、その挙げ句あることがきっかけでギターを弾くことをまったくやめてしまう事態へと導かれていったのでした。
☆ひさびさのおまけ動画…映画「禁じられた遊び」のサントラ曲。スペインのカタロニア地方の民謡で、アメリアとは悲劇のお姫様のこと。