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「今を生きる」と「未来を描く」は両立できる。国際協力を志す20代のキャリア観
自分のやりたいことやキャリアの築き方、葛藤との向き合い方について、悩みを抱える人も多いのではないでしょうか。10%の第3回は、社会人1年目での転職を経て、現在は楽天モバイルでプロジェクトマネージャーをされているワード珠里亜さんのインタビューをお送りします。新卒時代の苦悩や国際協力への想いなど、さまざまな葛藤を乗り越えてこられた珠里亜さん。その道のりと、前進し続ける秘訣に迫りました。
理想とのギャップに葛藤した新卒時代
ーーはじめにこれまでのキャリアを教えていただけますか?
新卒では、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)やデジタル化推進を行うIT系の会社に入社しました。
コンサルの仕事に興味があり何社か見ていたのですが、なかでも、顧客伴走型で仕事ができる点や、業務改善とオペレーションの両方に携われる点、若手が活躍している点に惹かれたんです。最終的には、人事と話して相性が良くビビっときたのが決め手でした。
ただその会社は入社から9か月で転職し、現在は楽天モバイルの品質管理本部で、アプリやソフトウェアのリリースのマネジメントに携わっています。
ーー1年足らずで転職された理由は何だったのでしょうか?
入ってみたら、仕事内容が想定と全く違ったんです。テクニカルサポートのプロジェクトに配属され、初歩的な技術面のトラブルシュートがメインで、業務改善やプロセス作りにはほぼ携われませんでした。
そんな状況でもはじめの頃は、目の前の業務だけでなく、プロジェクトの質やパフォーマンスの向上など、視野を広げてできることがあるはずだと考え働きかけました。しかし現状維持がメインで大きな変化が求められていない会社で、自分の主体性は重要視されませんでした。
自分の心の声を無視して「社会人ってこんなもんか」と割り切り、プライベートを充実させようとしたこともありました。でも「仕事どう?」と聞かれて「ぼちぼち」と答える自分がだんだん嫌いになっていったというか、どんどん違和感が増えていって。それが爆発して、ついに決心し転職しました。
ーー葛藤を抱えながらも最善を尽くし、その上で転職を決断されたのですね。今の会社やお仕事はどうですか?
1年足らずで1社目を辞めてしまったので「次の会社も長続きしなかったらどうしよう」と不安もありました。しかし蓋を開けてみたら本当に楽しくて、自分に向いている仕事だと感じています。
元々私は目標から逆算して物事に取り組むタイプで、ゴールやマイルストーンを設定してコツコツ頑張ることが好きなんです。なので、リリーススケジュールに合わせて計画を立て、進捗や各部署をマネジメントしながらプロジェクトを推進するのはすごく面白いです。
人と話すこともすごく好きですし、天職に感じられるほどです。グローバルな環境にも居心地の良さとやりがいを感じていますね。「これでお金をもらっていいんですか?」と上司との最初の面談で口にしたほどです(笑)
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「日本人らしい見た目になりたい」国際協力への想いの原点とは
ーー葛藤の末、ご自身に合う職場に出会われたんですね。2社目もIT系ですが、IT領域に特に関心をお持ちなんですか?
実はそうではなくて、就活生の時に深く考えずに選んだ会社がIT系だった、というだけなんです。
元々関心があった分野は国際協力で、大学でも開発学を専攻していました。なので新卒就活の時も、「将来的に国際機関に応募するかも」という想定で、とりあえず民間、そしてできればプロジェクトマネージャー経験が少しでも積めたらいいなとライトに企業を選んだ部分があります。
というのも、約2年間民間企業で実務経験を得た後に大学院でマスターを取得し、さらに途上国でフィールド経験を積んで国連に応募するのが王道ルートと言われているんです。
ーー就活は、国際機関に進むための手段に近かったんですね。国際協力に関心を抱いたきっかけは何だったのでしょう?
分かりやすいきっかけとしては、小学生の頃に学習塾のコラムでWHOなど国際機関の存在を知り、面白そうな仕事だと思ったことです。
ただ今振り返ると、それに加えて両親の影響や、自身のハーフとしてのアイデンティティが原点かもしれません。私はアメリカと日本のハーフですが、通っていた小学校にはそれをポジティブに受け入れてくれない子もいたので、「もっと日本人らしい見た目になりたい」と思っていた時期もありました。
そんな背景から、当時将来について考えた時、日本だけのために働くことや、日本で暮らし続けることを少し窮屈に感じて。かといってアメリカに行きたいというわけでもない、となった時に、「国境を越えた仕事がしたいな」と思ったのが始まりのように思います。
また、私の両親は教師と看護師で、人のために働くパッションと優しさがある人たちなんです。そんな家庭で育ったことで、「国際的×優しい=国際協力」に結びついた気がします。
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ーー長期的にはどんな仕事がしたいと考えていらっしゃいますか?
国連や国際NGOなどのグローバルな環境で、開発や国際援助領域のプロジェクトマネージャーになりたいと考えています。今の仕事でプロジェクトマネジメントを学べましたし、グローバルな職場との相性の良さがわかったので、次はより社会貢献性の高い仕事がしたいですね。
ただ、携わりたい分野や地域はまだ具体的に絞り切れていないんです。これまで大学で開発学を学んだり、海外大学の授業を受けられる無料のプラットフォームも利用してみたり、実際にソーシャルビジネスや教育領域の活動に関わってみたりと模索してきましたが、なかなかシンプルにサクッとは決められないですね。実は少し前までそれが悩みの種でした。
長期的なビジョンへ向けて、流動的に今を生きる
ーー国際協力のような大きな課題に向かうとなると、具体的に何がしたいのか絞るのは難しいですよね。どうやってその悩みから抜け出されたんですか?
自分の目指すキャリアを歩む先輩方の話をたくさん聞いたことです。その中で、「人生は計画通りには進まないものだ」と気づかされたんです。
実際に国際機関で働いている人も、必ずしも自分のパッションを明確にしてから専門分野を選ぶという、綺麗な順序でキャリアを進めてきたわけではなくて。例えば「最初に経験した協力隊での仕事が教育関係だったから」とか、「配属された部署が平和構築をやっていたから」といった具合に、得られた機会に乗って進む中で、自らの専門分野を見出した人が多かったんです。
結果だけ見ると綺麗な筋書になっていたとしても、実際は意外と多くの人が、私と同じ25歳の時点では人生のパーパスを模索中だったのだろうなと気づきました。
ーー能動的にたくさんの方とキャリアや人生について対話を重ね、気づきを得られたんですね。
はい。その他にも偶然の出会いから、「人生は私が思うよりも多様で流動的なものであり、流れに身を任せるのもありなんだ」と学びました。
例えば大学時代のイギリス留学では、そこで出会った北欧出身の友達から、日本のように新卒後すぐに就職してフルタイムで働くのは珍しいと教えてもらいました。海外では、ギャップイヤーが当然の選択肢なのだそうです。
他にも今の職場には、「20代では躊躇していたけれど、やっぱり海外に住みたい。社会貢献性の高い仕事がしたい」と、30歳を目前にいきなり退職しメキシコに渡ったちょっとクレイジーな子がいたり。
寄り道をしたり、衝動に身を任せたりと、いい意味で無計画な生き方もあるんだと知ったんです。日本はどちらかというと、逆算型で成功しようとする考え方が主流ですよね。いい企業に入って、結婚・出産して、何歳までに年収はいくらで、みたいな。
もともとは私もそのような感覚が強かったのですが、いろんな出会いを経て、「意外とみんな自由にやっているし、人生ってもっと楽しんでいいんだ」と影響を受けました。それに逆算型でなくても、パッションとスキルさえあればキャリアアップはできるのだと、少し広い目線で人生やキャリアを捉えられるようになったんです。今では、その時々の自分の関心に応じて次のステップを考えられたら、と思っています。
ーー逆算して行動するタイプの珠里亜さんにとって、目標が定まっていないことは不安ではないですか?
長期的なゴールからある程度逆算して要点を抑えつつ、意識的に「今を生きる」フェーズを入れこむことで、バランスをとっています。
例えば大学卒業以降、将来的に国際機関で働くことを見据えてフランス語の勉強を継続しています。純粋に新しい言語を学ぶこと自体がOSをインストールするようですごく面白いですし、習得すれば仕事や次のステップに繋がると期待しています。
また、近いうちにバックパッカーをしたいと思っているのですが、国連に入るなら、丸3年間民間企業で働いた経歴が大事だと、以前職員の方に教わったんです。なので、「バックパッカーは3年働いてから」と決めています。
他にも、プロジェクトマネジメントの国際資格を取ろうと考えています。開発の分野でも役立つ資格ですし、その資格があるだけで結構いろんな仕事が海外で見つかるので、いつか「ひとまずまた仕事をして生計を立てていかないといけない」となった時に助かるんです。
流れに身を任せるとは言いながら、本当に何も考えず、のらりくらり自由に生きる人に自分はなれないと思うんですよね。だからと言って、やりたくないことも「必要だから」と心を殺して取り組むことはできないと、新卒時代の経験を通して気づきました。社会人になるとそれができてしまう人が多いんですけどね。
なので今は、長期的な目標や方向性はある程度定めた上で、今をどう生きるかは自分の心の状態などにあわせて柔軟に調整する形で、ポジティブに生きています。
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今の自分を見つめれば、理想の未来が見えてくる
ーー国際協力を志す人にとってのヒントになりますね。長期目線のビジョンがあるからこそ、その道程が一直線でなくても、ひたむきに頑張れるのだと感じます。
ビジョンが明確なのは私の特徴かもしれません。日ごろから「ジャーナリング」という、ノートを使った自己分析を行っています。自分の心の声、つまり思っていることや感じていること、考えていることを書き出すんです。そうすると見えてくるものがどんどん広がり、自分を客観視することができます。
例えるなら、データを分析するような感覚に近いです。書き出す言葉ひとつひとつは断片的ですが、さまざまな切り口から分析していくことで、自分の頭や心の中がクリアに言語化されていくんです。
一人で行うジャーナリングだけでなく、他の人との対話を通じて内省を深めることも多いです。何でも話せるすごく濃い関係の友達がいるのですが、そういう人と時間もその一つだと思います。
ーー自分の生の感情や考えを吐き出し、それを観察・分析することで、自分の向かいたい先が見えてくるんですね。
そうですね。加えて私はジャーナリングで洗い出した思考を整理し、「ビジョンボード」という形で図式化しています。1年後に自分はどこで何をしていたいか、どんな人になっていたいか、どう生きていたいか。5年後はどうか……と明確にすることで、目の前の一つ一つの選択の答えが見えてくるんです。
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ーー可視化するとより明確にゴールを意識できそうですね。ビジョンの達成に近づくために気を付けていることはありますか?
自分が好きな考え方やライフスタイルをしている人を真似するのは一つの手だと思います。ビジョンボードも、好きなYouTuberがやっていたのを真似したんです。
どんな人と時間を共にしたいか、考えてみることも大事だと思います。私の場合は、周囲の同年代は安定したキャリアを選んでいる人が多かったり、前時代的な発言で考えを否定されたりすることもありました。「女子なのによく転職するね」とか、「とりあえず長く働いた方がいいよ」とか、「会社にいながら海外経験を積めばいいんじゃないか」みたいな。
周囲の人の影響はとても大きいので、自分にいい刺激や影響を与えてくれる人との付き合いを大事にし、単にネガティブな言葉をかけてくる人とは距離を置くように心がけています。
自分のなりたい大人像や描きたいキャリアを考えたうえで、どんな人たちのどんな話を受け入れ参考にすべきか、見極めることが大事ですよね。
「自分の」人生で、「自分は」何がしたいのか
ーー珠里亜さんの自分の人生への強い情熱を感じました。なぜそこまでの情熱を持ち、行動に移せるのでしょうか?
目標やビジョン、成し遂げたい目的を持つことが、人生を辛くも楽しい旅路にしてくれると信じているからだと思います。
もし会社のビジョンやミッションのためだけに行動するようになったら、気づいたらそれが自分の人生になってしまう。私にもそんな時期がありました。でも本来は自分と会社を切り離し、「自分の人生で自分が何をしたいか」を問うべきだと思うのです。
例えばジャーナリングは、それを明らかにするための有効な手段の一つだと思います。自分が今いる会社が自分の人生にどう役立っているのかを考えられれば、仕事にも前向きに取り組めるのではないでしょうか。
ーーやりたいことや人生の目的がある方がいいと思いつつも、なかなか見つからないものですよね。今の仕事に満足していなくても、「こんなもんだ」と諦めてしまったり、報酬や待遇面で折り合いをつけている人が多いように感じます。
確かに仕事があまりにも忙しいと、自分が何をしたいのか考えるのは難しいですよね。でも考えないままでいると、内省的に考える筋肉自体が衰えてしまう。
実際に私の周りにも、「どこに転職すればいいですか?」と相談してくれる人がいます。それに対して「あなたは何がしたいの?」と尋ねると、「考えてこなかった」と答える人がとても多いんです。自分がどう生きたいかを自分で考えられるよう、時には無理やり立ち止まってでも何かきっかけを掴める人が少しでも増えればなと思っています。
最善を尽くしたなら、どんな経験も糧になる
ーーやりたいことが見つかったとしても、転職前の珠里亜さんのように、もやもやに蓋をして挑戦をためらってしまう人も多いと思います。そんな人たちに寄り添うとしたら、どんな声をかけますか?
確かに環境を変えることは怖いかも知れません。しかし5年後も現状から何も変わらないのと、今変化を起こすのでは、どちらが怖いかを自分に問うてみてほしいです。そうすれば、答えは少しずつ見えてくるんじゃないかなと思います。
ーー決断のヒントになりそうですね。それでも失敗への不安から一歩踏み出せない人には、どのような声をかけますか?
アクションしながら学んでいいということ、そして、失敗は当たり前だし、失敗しても軌道修正できると伝えたいです。
葛藤や失敗を含めどんな経験も、その時の自分の価値観や考えを見失わずに選んだ結果なら、必ず糧になると思います。なので「どうやっていい結果にたどり着くか」より、「今自分がどんな価値観で選択をしたいか」に、思考やマインドの80%ぐらいを割くべきだと思うんです。結果的に何を選ぶかは、最後の20%でいい。今の自分が最大限考えて決断したのなら、理想的な結果にならなかったとしても、きっと糧になる。
そもそも何を「失敗」と呼ぶかも捉え方次第ですよね。私の場合は1社目が結果としてミスマッチでしたが、だからこそ自分がやりたいことや向いている環境に気づけたんです。葛藤してうまくいかなかったことも、本当にいい経験だったなと思います。
ワクワクする気持ちが、挑戦への第一歩
ーー最後に、珠里亜さんの思う自立した優しい挑戦者像を教えてください。
まずは1%でも2%でも、自分のいる世界の少し外側に目を向けられているかどうか、でしょうか。普段の生活だったり、家族や友人など身近なコミュニティの外側にも関心を広げ、「何かに飛び込んでみたい」と感じられるかが大きな違いになると思います。
さらにそこから、少しでも周囲を巻き込んで挑戦してみるマインドを持てたら、既に「自立した優しい挑戦者」への一歩を踏み出しているのではないでしょうか。
チャレンジしよう、ワクワクしよう、といった気持ちを純粋に持つのが難しいのが社会人だと思います。だからこそ、今より少し広い視野で興味関心を探索し、周囲の力も借りながら踏み出そうと思えることがとても大切だと思うんです。
その上で私のように、今の環境を変えたり新たな人に出会ったりすることは、取り得る具体的なアクションの一つかもしれませんね。
編集後記
さまざまな葛藤を抱きながらも、常に自分と向き合い歩みを進めてこられた珠里亜さん。一つ一つの問いかけに、とても真摯に、丁寧にお答えくださいました。
珠里亜さんのように大きな目標を持つ人だけでなく、変化の激しい現代社会を生きるすべての人にとって、「流動的な今」の受容は必要なのかもしれません。
「今の自分が最大限考えて決断したのなら、理想的な結果にならなくてもきっと糧になる」珠里亜さんの言葉が、背中を押してくれる気がします。
(文・坂上晴郁 編集・山崎真由)