飼いならせ不安
地元の甲子園予選を見ていた時に、ある選手の姿に勇気づけられた。
敢えて地元の名前は伏せるが、世界に誇る杉並木街道がある県だと言っておく。その日は決勝戦進出を決める試合。先攻の相手チームは甲子園の常連校。そんな強豪相手に7回まで0-3と優位に試合を進める。しかしさすが強豪、9回の表で5点を取り返し、5-3と最後に意地を見せつける。
そして向かえた9回の裏。得点は変わらず、2死でランナー満塁。誰もが追い込まれたと思ったその時、ある選手が打席に立った。
打席に立ったその選手は、とても楽しそうに見えた。その表情には曇りが一切無かった。いや、もしかしたらあったのかもしれないけど。どうしてあんなに笑顔なんだろう?と思わず気になってしまった。”ここでアウトになれば試合が終わってしまう”という緊張を感じさせないほど堂々としていた。
カキーンッと音がした。バットが球を捉えた時、肩の力は抜けていたと思う。実況席が「歴史を変える一発~!!」と叫ぶ。打球はライトへ飛び、守備の手前でストンと落ちた。なんていい場所に打ったんだ。守備がもたついている中で、2,3塁のランナーがホームイン。なんと5-5で同点に追いついた。正直負けムードだった選手と応援席は大熱狂。テレビで応援していた人たちも、手叩きせずにはいられなかっただろう。その選手は勝敗が決まるほどの重圧を物ともせず、チーム勝利への手助けをしたのだ。
そして延長戦に突入。相手チームの攻撃を抑え、後半はまさかのホームランで試合終了。両者がせめぎ合う、とても白熱した試合だった。
たまたま実家に帰り、テレビを見ていて、ここまでのめり込んで応援した試合は無かった。家族全員で叫んだりヒヤヒヤしたり。普段の生活では感じられない感覚を味わった。その中でも、窮地の最中で勝機を見出したあの選手の姿が忘れられなかった。
”もし自分のせいでチームが負けたら”そう考えただけで、肩に力が入って入ってしまう。しかしその選手から不安は感じられず、むしろチームを照らす光のように見えた。きっとその笑顔の裏には、厳しい練習を乗り越えた経験が積み重なっているはず。その中で自分を見つめ直し続け、不安を飼いならす術を身に付けたのだろう。人は窮地に立たされると本性が出る。その選手は窮地でも冷静に、ただ勝利だけを見つめていた。
まさか高校生から勇気を貰えるとは思わなかった。
これだから甲子園は面白い。頑張れ!高校球児!!
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