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fukulow
たまたま乗ったバスで、理想の社会人を見つけた話。
たまたま乗ったバスで、理想の社会人を見つけた。
「おはようございます」と目を見て笑顔で挨拶して、
「おつかまりください」と心づかいを忘れない大人を。
録音のアナウンスでも事足りるっちゃ足りるはずだし、そうしても責める人はいないように思う。実際そうしている人をたくさん見てきた。
けど、その人はそう思っていないようだった。
アクセルを踏むたびに、「発車します」
誰かが降りるたびに、「お忘れ物にご注意ください(with 感謝)」
角に着くたびに、「曲がりますのでご注意ください」
と欠かさず声を発していた。
それも、決まり切った文言としてではなく。
ひとつひとつ気持ちが込められた言葉はとても暖かくて、
寒い冬の公園で陽だまりを見つけたときみたいな気持ちにさせてくれた。
二人席を一人で使っていても咎められないくらいの混雑の車内では、みんながそれぞれの手元に視線を落としている。
アナウンスに気を留めているのは私だけみたいだった。
それが、嬉しいような、ちょっぴり寂しいような。
私の心でマーブル模様が描かれていることなんてつゆ知らず、バスは進む。
そして終点に到着して、前後のドアが同時に開いた。
私はカバンを確認するふりをして最後まで残り、遠い方のドアまで歩いた。
ありがとうございました、と精一杯の(でもものすごく控えめの)勇気をもって伝えると、
ありがとうございました、行ってらっしゃい!
と優しい声が返ってきた。
顔は見ていない。でも、きっと優しい表情だった。
仕事に誇りを持っている人は、本当にかっこいい。
こんな社会人になりたい、と強く思う。頑張りたい。
感謝は、言わないと届かないらしい。
ありがとう、あの時の運転手さん。
Special Thanks: 平岡 雄太様