スライダーの偉大な滑り方【毎週ショートショートnote】
ある日曜日の朝のこと。
突然チョココルネを作ってみたくなった。
円錐形の型に生地をくるくる巻いて焼き、中にチョコカスタードを詰めるやつ。
でも、コルネ型がない。
困ったなあ。
そうだ。あれを使っちゃおう。
夫のギターケースのポケットからステンレス製の筒のようなものを出す。
あの、ブルースギターには欠かせない、指にはめて弦の上で滑らせて、うねりのある音を出す道具。
これ、なんて言ったっけ?
スライダー?
夫にはこういう一個あれば充分なものを幾つも買う収集癖みたいなものがあって、6個も出てきた。
そういえば、最近ギター弾いてるとこ見てないなあ。
ブルースギターを弾く姿があまりにかっこよくて一目惚れしたのに。
*****
「チョココルネ、作ったんだけど、食べる?」
「おっ、美味そう!」
お皿にチョココルネを一つ載せて、テーブルの上に置く。
夫が椅子の背に手をかけた瞬間に、うわあああ、と言って滑って尻もちをついた。
「ご、ごめんっ」
洗ってテーブルの上に置いてあったスライダーが転がり落ちて、それに滑って転んでしまったようだ。
夫は床の上に仰向けに寝転がったまま、私のスカートの中を覗いている。
「ちょっと…古女房のパンツなんて見る価値ある?」
「え?ライブに来てた超短いスカートの子が可愛くってさ。あのスカートの中がどうしても見たくて…で、現在に至るんだけど」
「ちょ…そんなところに顔突っ込まないでええっ」
「ね、久しぶりに…」
スライダーの偉大な滑り方とはこのことか。
(了)
追記1 正しくは『スライドバー』、または『ボトルネック』と言います。お題に合わせるために、無理やり『スライダー』にしちゃいました。
追記2 こんな感じの音色を出します。
たはらにか様のお題に参加させていただいております。
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