【R18】短編小説 SECRET JOY 秘密の悦楽(サンプル)
【あらすじ】
エリとミツルは結婚して二年の夫婦。仕事のせいですれ違うことが多く、セックスレス。SECRET JOYというカップルバーに行ってみることをミツルに提案されたものの、エリにとってはそれがショックで、しばらく実家に帰ることになり、更に、たまたま自宅に戻った際にとんでもないものを発見してしまい、夫婦の溝は大きくなる一方で…。
【本文試し読み】
夏が、すぐそこまで来ている。
朝の光がカーテンを通して部屋の中に充満してくる。こんなに明るくまぶしい朝にじっと眠ってなんか居られなくてベッドから跳ね起きてみると、時刻はまだ六時を少し回ったところだった。目覚まし時計は六時四十五分にセットしてある。いつもならすぐにシャワーを浴びて、朝食の支度に取りかかるところだけど、時間に余裕があったので、ダイニングテーブルに置いてあった雑誌に目を通す。
この時期のファッション雑誌の特集は、毎年判で押したように同じだ。体系別この夏の水着、夏までに三キロ痩せるダイエット特集、この夏彼と行きたいデートスポット、星座別夏の恋の行方……。浮き足立って、今年は何を買おうとか、どこへ行こうと考えていた心がここで萎える。外見は独身の頃と変わらないつもりでも、やっぱり私はデートにも恋愛にももう無縁な主婦だ。この夏行くのは多分義実家と、近くのディスカウントショップだし、この先、素敵な人は現れない。この夏というより、今年の夏も、来年の夏も未来永劫そんな感じで、義実家に行って、行くたびにお義母さんに孫はまだかって催促されて、そのうち子供を生んで子育てに追われて正真正銘の生活感溢れる主婦になっていくのだろう。
恋愛関係の記事はすべてパスして、今年の水着を詳細にチェックしてみた。今年は茶色のセパレート水着に決定。肩の辺りが大きめのフリルで隠れるのがいい感じ。でも、水着を着るなら、三キロぐらいは痩せたいところだ。やっぱり雑誌の記事って読者の需要に沿って出来ているのだ。と、くだらないことに感心してみる。私も出版社の端くれ(かなり端の方だ)のようなところで働いているが、私たちの作っているものは、受験に出る、あるいは過去に出た、という読者のストレートな需要に応えるように作成されている。
よく考えたら、水着もやはりパスだ。着ていくところがない。住宅の購入を考えているので、夏休みに旅行になんて行ける身分ではないからだ。雑誌を閉じてバスルームに行き、シャワーを浴びて髪を洗った。美容院に長い間行っていないので、髪が長くなりすぎている。タオルで体を拭いて、鏡を見て体に余計な肉が付いていないかチェックする。それから体脂肪計つきの体重計で体重と体脂肪を測定する。今日も変化なし。
バスローブを羽織って、朝食の支度をしていると、パソコンの起動音がした。ミツルくんが起きてきたようだ。パソコンを起動する前に妻に何か言ったらどうなんだ。例えばおはようとか、今日も綺麗だねとか、昨日は遅くなってごめんとか。いろいろ言うことがあるだろう。朝っぱらからミツルくんに文句を言うのもすっかり飽きてしまったので最近の私は何も言わない。ミツルくんは生まれ変わったら間違いなく私ではなくパソコンと結婚するだろう。そのほうが絶対幸せになれると確信している。
私が台所で目玉焼きを作っていると、ミツルくんがやってきて、後ろから私を抱きしめた。そんなことより先に何か言うべきではないのか。バスローブの紐が解かれ、厚手のタオルでできたローブがどさりと床に落ちた。
「ちょっと何すんのよ。目玉焼きが焦げるじゃない」
「じゃあ、ガスの火止めて……そのままにしてていいから」
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