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視点の固定って何?

昨日、某SNSの創作アカ界隈で警察小説新人賞の選評が話題になりました。


何が話題になったかというと、最終選考に選ばれた三作品が、選考委員の作家によって小説になっていないと評されていたこと。

候補作品を選ぶまでの編集部の選考基準と、選考委員のそれとに大きな齟齬があったものと推察されます。

もちろん候補作品を読んだわけではないので、何とも言えないのですが、その原因の最大のものは「視点」の扱いではないかと思います。

だってさー、私が小説を書き始めたころの投稿サイトでは、猫も杓子も「視点の固定ができていない」とか「視点がブレている」って、言い合ってた。

あ、この投稿サイトは現在主流である作品を発表するサイトというものではなく、相互批評の色合いの強いサイトだった。

でさー、この「視点がブレている」っていうのを久しぶりに見たわけよ。

小説が他の表現と違うのは、視点があるからだ。誰が見て、誰が感じ、誰が考えているのか。それをちゃんと意識して書かなければならない。同じ場面で、複数の人物の視点が混在しては小説が成立しない。小説は視点の芸術だからだ。

これは、今野敏氏の選評の一部なんだけど、私が小説を書き始めたころの認識ってこんな感じだった。

じゃあ視点の固定って何よ。

まあ、一人称の視点が固定されているっていうのは、説明の必要はないよね。
「わたし」が見たこと、感じたことしか語れないわけだから。

三人称には、三人称一元視点(視点がある登場人物に固定されている)というのと、三人称多元視点(神視点ともいう。全体を俯瞰する視点で語られ、全登場人物の考えていることが丸わかり。それぞれの人物の内面にも入り込んで語らせることもできる)の二種類があります。

当時は「新人賞に投稿するのなら、神視点はやめておきましょうね」的な認識でみんな小説を書いていたように思う。

とはいっても、なんで神視点がダメなのか。合理的な説明を聞いたことはありませんが。

とはいえ、特に神視点が好き、というわけでもなかったし、視点=カメラの位置というとらえ方ではなく、視点があってキャラが語ることは話を進行させるだけではなく、その人物の考え方の基礎を描出することでもあるので、まあ、視点は固定するものだという認識で小説を書いていたわけですね。

そこでブランク。
長期にわたって小説を書くのをやめ、二年ほど前にリハビリとして短編の官能小説の執筆を始めました。

で、もうみんなブレてるのよ。視点が。
え?
って感じで混乱した。
それから、いろいろな官能小説の書き方サイトなどを見た結果、それが官能小説のデフォルトな書き方だということを知りました。

基本的には三人称で書く。でもその三人称は、人物の内面には固定されていなくて、外側から外見を描写したり、内面に入って心情を吐露したりと、移動してもよくて、セックスの時にだけ、男性と女性の両方に切り替わる(つまりエッチなシーンが2倍)というもの。

ひゃっはー、びっくりした。
こういうの「あり」なんだ、と思いました。

それからもう一つ気になるのが、客観視点。
あちこちに移動しないまでも、誰の視点でもない客観視点(カメラアイ的な)というのがあって、これが正直言ってキモい。

カワイイ女子が可愛く心情を吐露している場面に、いきなり客観視点のおっさん臭い文体が闖入してきてカワイイ女子の外見描写を始めるわけよ。
女体、とか言って。

うっげー、私、この「女体」って言葉が「肉棒」と同じくらい嫌いだよ。
にょ、た、いっ。
にょにょにょにょーーーーーんって、ねばつく。
キモい、キモすぎる。

でも、官能小説の読者は男性、しかも中高年だからこういう気持ち悪さは感じないんだろうなあと思う。

そこで実験です。
私が気持ち悪いと感じる視点の移動のある文章をつくって、この視点どーよ、と官能小説界隈の方々にきいてみた。

 奈美は裸でベッドに横たわっている。
 光を反射する軽いウェーブのかかった髪に、整った顔立ち、豊かに隆起する二つの頂の先端は、キスを待つ唇と同じ色をしている。
 頼りないくらいに括れたウエストから下は緩やかなカーブを描き、やや筋肉質の太腿の間の恥丘は綺麗に脱毛され、ふっくらと盛り上がっている。
 もう、待ちきれない。いつまでシャワーを浴びているのかしら。奈美の中で膨らむ欲望は熱く溶け出して、柔らかな肉の器官をじっとりと濡らしている。

100%、「普通にアリ」って回答だったよ。

答えてくれた方はみな「書く」方なので、当然五行目と六行目の間に視点が切り替わっていることは理解しています。

え?
アリなの?

まあこの先プロの官能小説家になることはないので、こういう「客観視点」で、「女体」を描写できなくてもいいや。

昨今のWeb小説の中には、章によって一人称と三人称が混在してる、みたいな作品も多いしね。

で、結局何が言いたいかというと、私は先に引用した今野敏氏のような視点で書いていくと思います。

でも、他人の作品に関しては、あまり視点にこだわらずに読んでいこうと思った次第なのでございます。

そういう、視点固定ファンダメンタリストである私の作品はこちらから。


警察小説っぽいものも書いてます。


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