メガネ朝帰り【毎週ショートショートnote】
ふあ?
もう着いた?
ダッシュしなきゃっ。
最終電車が到着したあとのタクシー乗り場は長蛇の列になるので、ここで猛ダッシュしないといつまでたっても家に辿り着かない。
やばい。
酔っ払いすぎて走れない。
ふらふらしながらやっとのことでタクシーの列の最後尾について、へたり込み、メガネがずり落ちそうになる。
「おねーさん、大丈夫?」
「はひ?」
「人少なくなるまで、座って待とうよ、ね」
ちょっとこれナンパ?
でも、メガネをかけた真面目そうな青年だったので、言われるままに駅の階段の下のベンチに移動した。
***
自宅のベッドの上で目が覚めた。
ううっ…起き上がると頭が割れるように痛い。
枕元のメガネをかけると、また視界がぐるぐる回って、メガネがずり落ちる。
フレームも度数も違う?
昨日のことを思い出してみる。
駅のベンチに座って…あ、あの青年のメガネか。
ってことは私のメガネはあの青年が持ってるってこと?
困ったな。
ダメ元で駅まで戻ると、ベンチの上に私のメガネが。
テンプルのところにおみくじみたいに紙片が結び付けられている。
連絡ください
xxx-xxxx-xxxx
***
「よかった。連絡くれて」
昨日の青年とカフェで待ち合わせして、メガネを交換した。
「で、なんでメガネが入れ替わってたの?」
「え?覚えてないんだ。…ふたりともメガネ外したってことだよ」
思い出して、赤面した。
「お持ち帰りしちゃおうかと思ったけど、ちゃんとタクシーに乗せたんだから、褒めてくれよな。朝帰りしたのはメガネだけだろ。だから名前と連絡先ぐらい教えて。朝の電車で見かけてずっと気になってたから…」
メガネと、その持ち主である私が揃って朝帰りしたのは、もう少し後のこと。
(了)
たはらかに様の企画に参加させていただきました。
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