僕たちの街の風景【1】
街が黄昏色に染まる頃には、街の誰もが1日の終わりを振り返りもせずに手放して行く。
君はそんな風な人たちをまるで最初から何も知らないかのように見向きもせず、寂しい瞳でただ黙って、立ち止まり通り過ぎて行く影たちだけをじっと見つめていた。
僕はそんな君を見つめていることが好きだった。どこかの店の窓から外を眺めては、君はたったひとりでその場に取り残されてしまったような顔をして僕に視線を投げる。
誰もが夢ばかり見たがる、こんな街の中で自分の姿を探すことなんて、出来やしないのに。
「私ね、いつかこの街を出ていくと思うよ。」
君は窓の外を眺めたまま、ポツリと呟いた。
「どうして?」
僕が君の手元にある飲みかけのコーヒーを見つめながら聞くと、君はつまらなそうに答えた。
「だって。この街じゃ夢が見れないから。現実的すぎて、何ひとつ嘘がなくて。」
頬杖をついた君の顔が綺麗に夕陽に反射していた。
「毎日毎日、何かに思い焦がれることを夢に見てね。それでも押し付けられる現実にいつの間にか目の前の景色がモノクロになるの。そんなのは、私の求めているものじゃないな、って。」
君は僕の方に向きなおすと、笑って言った。
「なんてね、どうでもいい話。」
僕たちは、その後また黙ったまま街の景色に目を奪われてしまう。
どこにも嘘も夢もない、この街の景色に。
何もかもが作り物で出来上がっているはずなのに、そこには現実しかない。矛盾するこの街の中には、君の言葉すら慰めてくれる物はないままだった。
「私ね、高校生の頃にものすごく仲のいい友達が居たの。親友って呼んでいいくらいの。」
「うん。」
「でもね、その子は私と半年しか仲良くしてくれなかった。私は捨てられちゃった。」
そう言って君は寂しそうに視線を落とした。
「それはどういう意味か…僕には分からないんだけど。」
「うん、その子はね。」
一瞬、君は躊躇ったあと言葉を続けた。
「死んじゃったんだ。自分で。」
そして僕たちはまた、窓の外の街の景色に視線を移す。
夕陽がビルとビルの合間の狭い空にほとんど沈んでしまおうとしていた。
街の灯りは少しずつ、夜のネオンに切り替わって行っていた。
<to be Continue>