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名前のない色【5】

作りものじゃないハッピーエンドを。彼女と君のすれ違う言葉に答える僕の言葉は何処にあるんだろう。

「繋いだ手の先に優しさがあるように。それだけを望んでいるの、私は。」

彼女と君は涙を流さずに泣いていたことに、僕は気付いていたのだから。
だから、僕は今、思う。誰よりも彼女を、君を、深く愛していたということを。消えてしまうほど。
記憶より確かな現実を掴んだとしても。僕がいなかったとしたら泣いていた彼女が居た。
幸せの定義を何処かで納得したとしても。偶然に起こる必然を幸せなんだと思う君が居た。
僕のことを可哀相だと悲しんでいた。現実に触れられなくて恐いと言っていた。
そんな彼女と君は、いつになったら何ものにも縛られずに居られるようになるんだろう。永遠に色褪せない写真に映されたように時は止まったまま、そこに佇んでいる世界はいつ動くんだろう。

「新しい境界線を引いて。それを越さなければ私はいつまでもこのままだから。だから、いつの日かにあなたは私を迎えに来てくれるのかな。ただ、何も言わずに待つだけしか出来ないけれど。」

透き通った彼女と君の瞳の色が何という名前の色だったか忘れてしまったけれど、確かにそれは僕の目の中に映っていた。「このままでいい」なんて彼女と君は言うけれど、そんなはずはなかった。そこには何もないのだから。一体僕は今まで誰と、何を語っていたんだろう。空っぽの空間で。
掴んだ彼女と君の手の感触を確かめるように自分の右手を見つめてみても、そこには何も残っていない。彼女と君と過ごして、交わした言葉はどれだけの数だったろう。しっかりと掴みたいのに何処にもなくて僕はいつも手探りで触れていたような気がする。本当は彼女も君も、積み重ねた言葉で見えないぶんだけ嘘をついていたのかもしれない。誰よりも幸せを大切にしていたはずなのに。

守られない約束をして彼女と君は風にさらわれて消えてしまう。
どんなに切ないハッピーエンドよりも悲しくて、愛しくて儚い現実と名前のない色と夢の軌跡が残った。

「また逢えることを信じてるから。どんなに遠く離れたって。」

<END>

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