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今日の居場所

―言葉の違いについて―

落ち込むほどのことでもないな、って思っても、どこか心の中に傷ついた部分があって引っ張られる感じ。それって多分、ショックの後遺症なのかもね。そんなもの、気付きたくもないのに。気付かないほど、自分は強くありたいのに。

まるで騙し合いをしてるみたい。

悲しいときに悲しいな、っていう感情を表に出すことが困難なときがあるのと同じで、いつだって自分は感情というものに影響を受けずに生きて行きたいと思っていたとしたって、それは多分。きっと、私が誰かを助けたいと思うのと同じように、誰かは私の元に手を差し伸べてくれようとしているのかもしれないけれど。でも私はそれに気付かないし、気付いたとしても気付かないふりをする。誰かに救われたいと思ったとしても、それはきっと隠し通さないとならない感情なのかもしれないから。そうやって知らないふりをずっと続けながら、自分はひとりきりだと思ってる。ただ、それだけのこと。

「翔は死んでしまいたい、って思うことってある?」
「死にたいと思うこと?」
「そう。」
僕はしばらく考えたあとに、
「たまになら。あるかもしれない。」
と答えた。そんな僕を見つめたまま、里緒は言った。
「別に、珍しいことでもないよね。誰でもそう思うことってあると思うから。ただ、その思いの深さによってはとても深刻だよね。私はいつも、それ自体よりも、その思いの深さを考えるの。」
「君はよく思う?」
「うん。よく思うよ。」
里緒は僕の夕焼けに伸びた影を眺めながら言った。
「すごく。深く。」
僕は何と言えばいいか分からずに黙って次の言葉を待った。
「私はね、ずっと勘違いしていたの。ずっと自分は『生きていたくない』んだと思ってたから。生きていること自体が嫌なんだと思ってたの。でもね、ある日気付いたら…私は『生きていたくない』んじゃなくて『死にたい』と思ってた。」
「その違いは…すごく微妙だと思うけど。」
里緒は
「そう。でもね、全然違うよ。生きているのが嫌だから死んでしまうのと、死にたいから死んでしまうのは。生きているのが嫌でも死んでしまう必要はないし、死にたいと思っているなら生きている必要がないから。この違い、翔は分かる?」
と言った。僕はしばらく考えてから、
「難しいよ、とても。」
と答えた。そして里緒はほんの少し、困った風に笑っていた。

<to be continued>

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