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都市の潮目に泣きっ面


すったもんだ日記


8月2日


新横浜まででよいのに東京までのチケットを買ってしまい、まあ差額払戻せばいいかと思っていたら、払い戻せませんと大きな駅員さんにつっけんどんにつっぱねられてしまい、こちらが間違えたんだから文句言う資格もないかと、とぼとぼ改札をくぐり、気分転換に駅のコンビニにはいって、アイスコーヒーsサイズを買ったのに、mサイズのボタンを押してしまう、ここでもミス。
「sサイズを買ったんですがmサイズを押してしまいました」

慌てふためく僕に対して店員の彼女は落ち着いたもので、コーヒーメーカーの目の前にやってきて、今まさに抽出されようとするコーヒーをじいっと眺めている。
「少し溢れるかもしれません」

コーヒーは溢れることなくなみなみとsサイズのカップにおさまった。
あらま。
mサイズ分の代金お支払いさせてもらいますと言う僕を制し、溢れやすいので気をつけてくださいと、コーヒーを手渡してくれた。

mサイズのものがsサイズのものに収まるとはこれいかに。


駅で待ち合わせたH(たけとんぼ平松)にバイクに乗っけてもらって買い出しに、顔にぶつかる風が生ぬるい。
Hの家にお邪魔し、新しいギターを購入する。細かい事は割愛するけれど、とにかくHの家で、それなりの値段のする、僕にとっては、とても大きな買い物をした。
ステージの上で使っているギターは一本だけで、買ったのはもう何年もまえ。ずっと一本。
気立てよい、好人物、スマート
弾いてみると、綺麗な音が出た、それでいてしっかりしている、あ、いいな、トリプルオースタイルといわれる、少し小ぶりなボディがいい、体に合う。どんどん好きになるような気がする。弾きたくなる。

そのまま新しいギターをかかえて会場のチットチャットへ
久しぶりに共演するB(煩悩)さん、久しぶりにというかはじめて、たくさん話をした。
お互いの頭の中の話。彼はやっぱり面白い。
HとBさん、G(ゴルゴス)さん(以前チットチャットでご一緒した方、今日は見にきてくれた)
朝まで一緒にいた。

8月3日

Hとデュオ編成でのライブ。
昨夜決めた。彼はあらかじめ予定をあけてくれていたらしいという事を後に知った。
久方ぶりに共演させてもらうM(みらん)ちゃんに高校生の時から知っているおとぎ話のギターボーカルA(有馬)さん。
渋谷、数々の芸人が鎬を削ってコントを披露し続けている舞台、僕を呼んでくれた箱のブッカーのKさんはオードリーが売れていく様を目の前で見たと言っていた。渋谷Lamama,。
終演後、Mちゃん、Aさんとしばしの談笑、お暇。
会場を出てHと蕎麦をかきこんだのち、近辺の大衆居酒屋へ雪崩れ込み至極あっさりとしたアテでビールを飲む。
明日も一緒にやる事を決めて、あっさりと帰り支度、Hと別れて慣れない電車に乗り込み、とぼとぼ一人で宿までまであるく、あるく、坂の多い町だから少し歩くだけで汗が吹き出し、湯を浴びたい気持ちに駆られて、どんどんと足早になっていく。
無事、今夜宿泊予定の宿に到着。
空調がしっかりと効いたロビー、無人受付、目の前にはタブレット端末、此処へ入るにはお客番号とやらが必要らしく、携帯電話でメールを確認、しかしそれらしいのが見当たらない、あれま、よくよく確認すると登録した電話番号でも受付可能とのことで、早速、打ち込む、が、はねつけられる、あれま。
なんでだろう。もう一度確認。
でも駄目、何度やってもはねつけられてしまう。受付完了メールをサイトから再送信して、もういちど確認、お客番号なんてない。あれま、あれま、あれよあれよ、焦る。 
まさか。
最終チェック時間を大幅に過ぎており、僕は宿に入る手立てを失っていたようだった。
お外もお先も真っ暗、途方にくれて、酔いが霧散、酒の代わりに暗然とした行く末が僕の頭をぼんやりとさせる。
とうに日付けは変わって、最終列車は遠く向こう。
僕は一人、やたらと坂の多い町に取り残されてしまったのだ。
宿泊できそうなホテルなぞ近くにないし、頼みの漫画喫茶もどこも満室。
先程Hが大衆居酒屋で言っていた「チェックイン時間確認しなくて大丈夫か?」という言葉が思いだされ、愚昧な衆生、とんちんかんシンガーな僕は「だいじょぶ、だいじょぶ」と無根拠な自信をもってして、其のありがたい忠告を跳ね除けてしまったのであった。
ほぞをかみながら、一縷の望みをかけてコール。
「ただいま満室でございます」
天から垂らされた細い糸が無惨にも千切れて、奈落の底へ僕を何度でも突き落とす。
多方面にコールするが寝床確保に結実することはなく、一人真っ暗闇の中へたり込む。
そうすると、ぼんやりと白い光が現れて、顔を上げると「新潮社」と掲げられた看板。
こんなところに。
いちおう写真をとっておこう。
響くシャッター音が虚しい。
状況は何も好転しちゃいない。まっくら。
旅の潮目である。

結局Hに電話することにした。
救急車の手配をするかのように。
何度目かのコールでてくれた。
天から垂れたのは、か細い糸ではなく、しっかりと縫い付けられた紐だった。

彼は片道一時間弱かけて迎えにきてくれた。
未明の空と彼の優しさの色はまったく同じだった。
もう朝はすぐそこ。
ほらみえた。

8月4日

若者たちで賑わう町をHと歩く。古着でも買おうかしらなんて思ったりもするけれど、物販である本やCD、着替えを詰め込んだリュックサックに余裕は無く、それに重たい荷物を持ちながらショッピングをしようなんて気がそもそも起こらない。

本日
デッドセクション(マンドリ弾きJ二胡弾きYさん台風クラブIさん)とお久しぶりの再会M(守晃)くん。
立ち飲み屋、二胡やHに演奏してもらって歌う、生音。Mくんもデッドセクション、どちらも素晴らしかった。みんな無茶苦茶だった。ラジカセから流れるエレキマンドリン、ペラペラなギターサウンド、麗しい二胡、店の壁をバスドラムみたく踏むならすパーカッション。
Mくんの中国紀行文集を買う(彼も僕の小説を買ってくれた)
銀川、フフホト、北京、、、彼の音を浴びた後だと、より楽しめそうな気がし、実際帰りの電車で読みおえた。
お客さんにはじめて作ったという曲を聴かせてもらったり、プロフィールなるものを書くのを頼まれたり、終演後にはTHEラブ人間のKさん御一行が飲みにきて、挨拶をかわした。彼は僕が高校生の時に聴いていたミュージシャンである。


都市にまるめこまれた僕は、てんころりん。









追記
夏のスケジュール

8月8日(木) 京都二条nano
8月10日(土) 大阪サボテン堂 
8月11日(日) 京都五条エンゲルスガール
8月12日(月) 三密堂書店
8月13日(火) 京都某所
8月30日(金) 大阪西成 難波屋

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