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みて惑星、自転車流星群
「思えば朝に商店街に来ることなんてなかったなあ」
まだ開店していないお店が多い。
一キロ近くアーケードが続く大きな商店街。
八百屋があって漬物屋があってお肉屋があってカフェ、喫茶店があって夜な夜な猫たちが集まる公園がある。
七夕には、近所のみんなが集まってとっても和やかなお祭りが開かれる、お気に入りの商店街だ。少し家からは遠いが用がなくとも立ち寄りたくなる。
人がいない深夜に商店街を自転車で通り抜けるのは爽快で、宇宙空間でワープしているような想像が膨らむ。
通り抜けに商店街を使っている人は割に多くて、お昼間だと自転車流星群が見られることも少なくない。
今日はコインランドリーにやってきた。シューズのお洗濯。
あらま、案に相違して人がたくさん。おはようございますーと快活なご婦人が入ってきて、ご近所同士なのだろうか、居合わせた男性と談話が始まる。
隣のおばあさんとおじいさんも腰掛けおしゃべり。
コインランドリーコミュニティーが築かれているようだ。なんだかいいなあ。洗濯物は午前中に済ませてしまうのが大変気持ちが良い。みんなもきっとそうなのだろう。
時間つぶしに持ってきた本を開いたところで珈琲が飲みたくなった。すぐ近くにコンビニがあったはず。
あらま。
パン屋さんが目に入った。入ったことのないお店だ。午前中の洗濯、パン屋さんのパン、珈琲、なんと素敵な組み合わせなのだろうか。
ハンバーガーのような程のタマゴサンドに野菜サンド、フォッカチャ、。
「端なしで4枚切りでお願いします」
一斤のパンが回転した丸いカッターでスライスされていく。丸ごとの食パンってなんて美味しそうなのだろうか、僕は今までパンを一斤買いしたことがない。
僕は三種のチーズピザとホット珈琲でシューズが洗い終わるのを待つことにした。午前の柔らかな日差しが窓から差し込み、パンと珈琲の匂いがぷんと香る。
深夜の商店街にぽつねんと輝くコインランドリーを想像してみる。
洗濯は午前中に済ますのが気持ちがいいといったけれど、深夜のコインランドリーの佇まいも好きである。
街にぽっかりとあいた空間、洗剤の香りを漂わせ誰かを待っている。両替機コインが落ちる音、ごとごと回り始める、忘れ去られた一足の靴下、時間の経過を知らせ、休むことなく稼働し続ける洗濯場。完了を知らせるアラーム、乾燥機から取り出す、微妙な湿り気をふくんだ衣服、うーん、これはもう一度乾燥機をまわすべきか否か、あとほんの少し、もう一歩、我慢できなくもないけれど、やっぱり乾ききっていないのは気持ちが悪い、えいや。もう一度。
また本を開く。
コインランドリーはなんだかワープ場みたいである。誰もいない無人ステーション、宇宙にぽっかりと空いた空間、煌々と輝きひっそり佇む。
ドアを開いて中へはいって、スイッチを押す、時間が表示され、ごとごと激しく揺れ始める。再び開いたときは、違う惑星のコインランドリーなのである。
今しがたワープを終えた人たちの賑やかな声が聞こえる。僕はランドリーから出て、しばらく折りたたまれて、こわばった体を伸ばす。
こちらは朝だ。みんな楽しそうにお喋りしている。
僕は隣のパン屋へ寄って珈琲とタマゴサンドで目を覚ますのだ。