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クリスマスケイキは如何でごさんしょ


いつ頃からこの島国に異国の奇習が舞い込んできたのであろうか。

僕が生まれた頃にはもう既に、サンタクロウスと呼ばれる赤い服を着た中年紳士が、鹿もどきが引っ張る雪船に乗って家々をまわり、いたるところにいる子供たちに贈り物を配って回るという習わしがしんしんどっしりと定着していた。

小さい頃、例に漏れずうちにも彼が毎年決まった日にやってきた。朝目覚めると、鈴やらが飾り付けられたもみの木の造木の下に贈り物が置かれていた。彼には直接会えないのだ。よってお喋りしたこともないからどんな人なのかは知らない。

我が家で聞かされたところによると、親に欲しいもの伝えると、親がサンタ事務局というところに手紙を送り、手紙を受け取ったサンタクロウスがみんなが眠りについている夜中にこっそりと贈り物を届けてくれるという手筈になっているとのことだった。
欲しいものが貰えるこの日を毎年、少年は大変心待ちににしていたのだが、いつごろからだったか、だんだんこの日に対しての煌びやかな関心が薄らいでいった。

12月になるとあらゆる装飾がなされて景気良く街が華やぐので、完全に忘れる去るということはないし、あらゆる媒体で雪合戦のごとく広告が飛び交うので嫌でも目につく。決してこの日を忌み嫌っているわけではない。むしろ慣わしに則って当日はケイキやビールを片手に揚げた鳥を食べる。けれど昔のように夢の中にいるような心の底から存分に楽しむことががなくなって、うら寂しい思いが募るのも事実なのだ。


2年前に「あるところのクリスマス」という曲をつくった。(携帯で録音した宅録音源で各サブスクで聴けます)
その日を彩る楽しげな曲というより、冬のしめった寂寥感を醸し出す曲となっている。
音源化されている曲の中ではかなり影が薄いと思う。


以下歌詞

「あるところのクリスマス」

街はどうにも華やかで馴染めずにいる私のもとに
しっとりした牡丹雪と顔合わせしたら泣けてきた
ひゅるり ひゅるり 思いを馳せる

今夜はメリークリスマス君に教えてあげよう
乾いた空に響く鈴の音

窓から見るよりおめかしした風景はいくらかよいものだと感心した

柄にもなく買ったクリスマスケーキ食べきれないだろうけど二つ買った

ひゅるり ひゅるり 思いを馳せる

今夜はメリークリスマス君に伝えてあげよう
乾いた空に今宵の魔法が

今夜メリークリスマス君と物語の続きを
かわいた空に今宵の魔法が






白痴だったか、なんの話か忘れてしまったけれど坂口安吾の小説で、戦争に対して希望を見いだし、戦争を望んでいる人について書かれている作品があった。
戦争を望むなんて、考えもしなかった。全員が苦しんでいるのだろうと勝手に考えていた。しかし、現実に絶望している人にとっては、戦争がなにかを変えてくれるのではないかという希望になり得たのだ。

クリスマスだって、いろんなクリスマスがあるだろう。
表通りからは離れた、小さくひっそりとしたクリスマスを書きたかった。

だけどしっかりとぬくいものを。

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