おばけなんて怖かない!
おばけなんて怖くない、と今では思っている。
小さい頃には、今ではとんと姿を消した心霊や宇宙人を扱うあやしい番組を見て、寝るときに後悔するという、ごく人並みの経験をしている。もちろん一度や二度じゃなく。
しかし最近では怖くて夜も眠れないなんてことは、まあない。
僕が唯一大人っぽくなれているところかもしれない。
僕の場合、怖くなってしまう条件は暗闇にあった。昔から、身の毛がよだつ思いをするのは決まって暗いときだった。逆に明るささえあれば、大体耐え忍ぶことができた。
僕の周りでは、怖い心霊モノをみてしまうと風呂に入れなくなるという人が割りに多かった、そして洗面台。つまりは鏡である。自分の背後にナニカいやしないかと、恐怖に慄くのだ。
僕はその辺はなぜだか平気だった。
おばけに対して自分なるの考えがある。
1・彼らが僕に対してできることはごくかぎられたものであるということ
2・もし目の前に現れたなら、決して目をそらさぬこと。逸らすから怖くなる。直視すべし この目に焼き付けてやるという気持ち
3・もし自分があちらへ連れてかれてしまうことがあったなら、あの世で改めて文句を言ってやるという気持ち
数年前のある夏の夜。
僕は怖い話を披露するラジオを携帯電話で聴きながら眠ってしまった(なぜそんなもの聞きながら寝ようと思ったのかはわからない)
途中、目を覚ます。
ラジオは流れたまま。深夜。
寝ぼけて頭がぼんやり、真っ暗な部屋の天井を見つめ、しばらくまどろむ。
少しづつ頭が冴えてきて、ラジオの内容が聞こえてくる。
すると、話がおかしなことに気がついた。
「ある一人の男性がね、これこれこうこう、こんな部屋に住んでいたんですよ」
僕の住んでいる部屋の同じ間取り、歳やちょっとした経歴からして、これは全く僕のことだとおもった。
鳥肌が立つ。
ラジオの語り部は僕の話を続ける。
「そんな部屋にね、幽霊がでるんです」
ぎょっとした。
と同時に身動きが取れなくなる、いわゆる金縛りというやつだろう。
ものすごうく怖い。
何かがいる気配がするような気が、する。
ラジオの声はだんだんと聞き取りづらくなっていく。
どんな話をしているのかわからない。動かない体に反して冴え渡る頭の中。ラジオの雑音。
僕はおばけに対する三カ条を思い起こし、絶対に目を瞑らないと決めた。
反感があった。敵対心があった。逸らさない。触れられそうなら触れてみる。
気持ちは折れちゃいなかった。
ぐっと天井、部屋の四隅を睨みつける。
くるなら来い。胸の内は押し寄せる恐怖と、敵愾心による興奮とがぶつかりあって荒れ狂った。
荒波にむかって行くような果てしなさがあった。気配はすぐ隣にあるようにも思えた。
結局、その何かが現れることはなかった。
我に恐れをなした敵は退散したようだった。ははは。
とっても怖かった。
翌朝起きてから確認するも、もちろんそんな怪談なんてなかった。
あれはなんだったんだろう。もう勘弁してほしいものである。こわいこわい。