見出し画像

異国できくきょく


あなたがもし異国に身を置く事になったとして、その異国の地で故郷を想い、恋しくなったとしたらどうするでしょうか。

友人と台湾旅行に行った時、その友人が滞在三日目にして、日本食が恋しくなり台北のストリートにある日本食屋にかけこんでカツ丼を食べるということがあった。
僕としてはまだまだ台湾料理を食べたい心持ちで、何故ここで日本食なんだと思いながら食ったものの、連日台湾料理を続きだっただけあって、そのカツ丼に僅かな郷愁を感じてしまったのを覚えている。
その台湾カツ丼は、完璧でなくとも普段日本で食べているカツ丼に近い味であった。
(海外に行くと、海外で展開されている日本食がどんなものなのか気になるようになってしまいました。)
やはり故郷が恋しくなったら、日本食を探すだろうか。もしくは本を読むのだろうか。はたまた写真を見返すのだろうか。
どれもいいけれど僕ならば一番手始めに日本語で歌われているうたを聴き、そして歌うだろう。歌は場所や時を一瞬で飛び越える力がある。



先日、夜半に駅のロータリイで腰掛けて友人とよもや話をしていた時、南アジア系かと思われる異人さんに声をかけられた。
彼はカタコトの日本語で、「歌を聴かせてくれ」としきりに言う。ビール缶を片手にふらふらっと近づいてきたので幾らか酔っ払っているのだということはすぐにわかった。
夜遅い時間ということもあり、こちらは警戒して真面目にはとりあわなかった。

「僕の携帯電話の充電が切れてしまったから音楽が聴けない。君のを貸してくれ。音楽が聴きたい。」

充電の切れた携帯を見せられたが、携帯電話を出したらひったくりにあってしまうかもしれないと、よりいっそう訝しみ、彼の要求をのらりくらりかわしていた。

「僕がスペルを言うから検索をかけてくれないか」
そうしつこく言う彼は僕の左側に座り、僕の右側にいる友人が、そこまで言うならと検索をかけた。真ん中に僕がいるならひったくられることも無いだろうとも思った。


流れ出した曲に彼は機嫌をよくし、拍子をとって口ずさみ、そして涙を流した。
僕の全く知らない印度の曲のようだった。
本当に彼はただ歌に耳を傾けたかっただけなのかもしれないと思った。
そのあとアイドルソングだとか彼のリクエストで何曲が流した。

正直彼の祖国が印度なのかどうかは定かではない。
ただ異国の地で、酒に酔いながら故郷の馴染みの歌に身を任せたらさぞ気持ちがいいだろうなあと思った。
しかし僕が異国の地で、彼みたく歌を聴かせてくれと人に声をかけることは酔ってたとしてもできっこないだろう。
もしそんな時があれば自分一人でひっそりと聴いて歌おう。






彼の事をひったくりと疑ったことを申し訳なく思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?