アスパラガスは誰の夢
もう大体は、校庭に遊びに出かけてしまっているが、数人室内に残ってる子もいるにはいて、お昼を食べ終わったあとに先生とお喋りしたり、折り紙をしている子、それは女の子ばっかりなものだから、余計に恥ずかしく、そして情けなく、悲しくなってくる。だけれどもどうしても体がうけ付けない。
いつもなら外に飛び出ておにごっこだとか、サッカーだとか海賊ごっこだとか、猫の額ほどの狭い幼稚園のグランドをおもいっきり駆け回っている時間だった。
狭いなんて思っているのは大人たちだけで、子供にとっては十分な遊び場で、もちろん男の子にとってもそうで、彼は体を動かすのがとにかく好きな子だった。
幼稚園のお昼ご飯は家から持ってくる弁当の日と幼稚園の弁当の日とがあって、同じクラスのアメリカからやってきた子はいつも同じサンドイッチ、父さんがNASAで働いているというインド人の子もいつもパンを食べていた。
男の子は白いご飯が好きで、ゆかりがちりばめられたご飯はもっと好きだった。
幼稚園のお弁当は「ねこちゃん弁当」といって猫の顔の形をしている。お昼になるとお弁当屋さんが持ってきてくれる。
いつものお母さんの弁当も好きだけれど、たょっぴり特別感がある、ねこちゃん弁当も大好きだった。
彼は好き嫌いがなくて、猫ちゃん弁当の日でも、ぺろり全部食べちゃう。
食べれない子は、遊びにいかせてもらえない。でも彼は平気だった。食べられなくて居残したりすることなんて一度もなかった。
のだけれど。
その日は違った。
みんなご馳走様をし、いつも一緒に遊んでいる仲の良い友達はみんなお外へいってしまった。
男の子の猫型のお弁当箱の中には、アスパラガスが入っていた。
アスパラガスはお家で食べたことがあって、口にアスパラガスのカスが残るのが好きになれなかった。でも、大嫌いというわけでもなかった、少し我慢すれば食べれる筈、、なのに。
問題はアスパラガスについているドレッシング。
食べ慣れない人生で初めての味、どうしてもうけつけなくて、後で食べよう後で食べようと避けているうちに、とうとうアスパラガスだけが残ってしまったのだった。
あら、めずらしい。アスパラガス嫌いなの?頑張ってたべみよう!
先生は男の子の横に座った。男の子はうつむいたまま。
部屋にいる女の子がちらちらと彼の方をみているのを男の子はわかっていた、それが嫌だった、それでもアスパラガスは食べれなかった。好き嫌いがない筈なのに食べれないのが悔しくて、それを先生や女の子に見られてるのが悔しくて。
涙がこぼれそうになるのを必死に堪えた。男の子がこんな事で泣いては駄目だ。
でもどうしても食べれない。
女の子が男の子とアスパラガスと先生のそばへ寄ってきて、どおしたのお?と聞く。
アスパラガス頑張って食べてるのよ、応援してあげて。そうなんだあ、頑張ってねっ。
男の子は余計つらくなった。猫ちゃん弁当の中のアスパラガスが滲んでくる。
そうだドレッシングが駄目なら、、と先生は奥からキッキンペーパーを取り出して、ドレッシングを拭き取った、これでどう?。
それでも嫌な味がしたけれど、なんとか口の中につっこんで食べることができた。
えらいえらい!
その頃には女の子は教室からいなくなっていた。
彼は大好きなアスパラガスを茹で上がったパスタに絡ませた。
あの日ことをふいに思い出したのだ。