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そうだ、京都行ってみよう。じゃなくて…京都駅から鴨川を北上し、四条河原町から阪急で帰ろうと思っていた。だけなのに・・・
とある土曜日、久しぶりに京都で友人と会うことになった。
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電車のダイヤも考えずにいつも通りに家を出たら、約束の1時間前に京都駅に着いてしまった。
元々はとある喫茶店の店内での待ち合わせだったが、京都の地下街に疎い僕を気遣って駅の改札を出た所での待ち合わせに変更してくれていたのだが、「1時間あるなら、約束の喫茶店ぐらい探せるな」と地下街に降りたら呆気ないほど簡単に見つけてしまったのだ。
「約束の喫茶店を発見。まだ早いので暫くうろついてます」とメールを入れると
すかさず「いまからいきます!」の返信。
「どちら?」と返信した途端に、友人が現れた。
そういえば、いつも約束の時間の30分以上前から来ている人だった事を思い出した。
近況を含め、色々と話しているとあっという間に2時間が過ぎていた。
喫茶店を出て
「これから真っ直ぐに帰るの?」と聞かれたので
「いや、せっかくやから京都をうろうろしてから帰る」
と答えたのだが、その時点ではノープランだった。
別れてから地上に上がった途端、鴨川を北上して四条河原町から阪急で帰ろうプランが浮かんだのだ。
かつて、そう、10年以上前に四条河原町から京都植物園を経由して国際会議場まで歩いた経験があるので、京都の町はたいした距離じゃないとたかを括っていたのだ。
しかも「人混みをかき分けて歩く京都」なんてコロナ禍で過去の出来事になったのだと思い込んでいたのだ。友人が「京都はコロナ前の状況に戻っている」と話してたことや、外国人が溢れかえっている京都駅を通って来たというのに・・・
思い込みが激しくなったのは、歳をとったせいかもしれないし、単に浮かれていただけだったのかもしれないのだが・・・
まっ、その時はとにかく気楽に考えていた。「四条河原町までなんだから」と。
京都駅から塩小路通りを鴨川に向かって歩いていると、急に雨が降り始めた。
これは想定外だった。傘も無いので、一旦京都駅へ引き返すことにした。
そして、京都駅のビッグカメラが4月末で閉店することを思い出し、一度も行ったことの無かった京都のビッグカメラへ行ってみた。
特に欲しいものがある訳では無いので、30分ほど店内にいて外に出ると、嘘のように晴れていた。
「じゃ、やっぱり鴨川を北へ向かおう」
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また塩麹通りを鴨川へ向かって歩く。
晴れた空が、気持ち良い。
鴨川を歩くなんて何年振りだろうか?と思い、河川敷に降りる階段を下って行くと、着物姿の人が多いことに気がついた。観光の町京都らしいなぁと思っていと、そのほとんどが日本人でないことに気がついた。
インバウンドがかなり戻ってきてるな。(今頃気がつくのか???)
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五条を過ぎ、松原橋まで来た所で大粒の雨が降り始めた。松原橋の下で雨宿りかと思ったが、風も強くなり小さな橋の下では雨宿りは無理だと判断して階段を登り橋の上を西へ向かおうとしたら、なんと数珠繋ぎで東へ向かう人の波がこちらへ向かってきていた。
「まずい」そう思うと自然と足は東へ向かっていた。
松原通りを東へ向かい、路地の軒下で雨宿り。
「さて、どこへ向かう?」
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小降りになったタイミングで、八坂神社を目指す事にしてみた。「してみた」とは、決定ではなく「とりあえず」という意味だ。
旅に出ると「とりあえず散策」をしていることが多い。目的地へ行く事が目的ではなく、その道中を楽しむ散策の事を僕はそう呼んでいる。意外な発見も多く、あっという間に時間が過ぎていく事が多い。
初めて通る通りや路地を巡っていると、面白い発見に出会えるのだが今回はどうも読みが甘かったようだ。
どこに向かっても出くわすのは「人の波」だ。ましてやその波は予定していた目的地の方から押し寄せてくる。
八坂神社の前まで行ったが「目的地変更、目指すは蹴上げ」と決めて人の少ない路地を北へ向かう。そう、今度は決めたのだ。とりあえずではない。
三条通まで来て蹴上げ方面を見ると、流石に観光客の姿は無い。青空の下、快適に坂を登って行く。
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途中で、鳥居が並ぶ路地を見つける。「合槌稲荷大明神 参道」
参拝しようかと迷うが、写真だけ撮って坂を登って行く。
都ホテルの前まで来ると、当然の如くインクラインが見え始める。
国際交流会館まで来ると、観光客が溢れている。
ここまで来て初めて、春休み最終の土曜日であることに気がついた。
そりゃ、人が多いはずだ。
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インクラインでは、写真撮影するカップルや結婚式の前撮りであろう人々が線路の真ん中に並んでいる。
離れて見たら、きっと電線に並んだカラフルな雀のように見えるだろう。
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インクラインの一番上まで来て、考えた。
さてさて、人混みに戻るか、それとも人混みを離れるのか。
まぁ、考えるまでも無いのだが、このまま東へ下り、山科まで行こうと決めた。
ここから先は、初体験の道だ。
国道沿いだが道路の両側が山なので、民家はほとんどない。
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坂を下って行くと「田久保自動車整備工場」と書かれた工場に懐かしいスバル360やトライアンフの姿があった。
しばらく下って行くと、民家が増え始め町となって行く。
ふと見上げると「疏水散策はこちらから」の看板を見つける。
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見つけた限りは、行かねばならぬ。と国道を離れて坂道を登ることにした。
琵琶湖疏水は、山科駅から東側まで歩いた事はあるけど、西の端から歩いた事がないので、桜の季節は少し過ぎているけど歩いてみる気になったのだ。
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住宅地の車一台しか通れないような道を登って行くと突き当たりに太鼓橋があり、その左手にインクラインに繋がるトンネルが見えた。
日頃歩き慣れている人やランニングをする人が、まばらに疏水の両岸を通って行く。
桜のシーズンが過ぎてしまったからだろうか。カメラ片手に歩いているのは僕だけだ。
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疏水の北岸を東へ歩いていると、左手の森は原生林の様相を呈し、人里を遠く離れたような錯覚を覚える。とは言え、疏水を見ると観光客を乗せた観光船が疏水の流れに乗ってインクラインへ向かって下って行く。
疏水の歴史を思い出しながら、歩いていると柵のある橋に行き当たり北岸の道は行き止まりとなっている。
まさかの展開に戸惑いながら、引き返す事に。約300m×2=600mほどの寄り道か・・・
手前の橋まで引き返して南岸を東へ歩いていると、北岸を歩く人がいる。いかにも歩き慣れた風の人を見ていると、あら不思議。行き止まりだと思った橋の柵をいとも簡単に開けて、橋を渡ってくる・・・
「うんうん、いい運動をしたなぁ〜」と苦笑い。
しかし、静かだ。水の流れる音と風の音。歩く人の足音が時折混じるだけで、話し声も聞こえない。遠くから、電車の走る音が聞こえる程度の静けさ。
来てよかった。と思いながら道側のベンチに腰を下ろし、一休み、一休み。
久しぶりに会えた友人との楽しい会話に浮かれて、ここまで来たのかもなぁと思うと笑えてきた。(うんうん、単純な奴ですw)
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休憩後は、一気に東の端まで歩く。
そして気がつく。「昼飯、食べてない・・・」
時計は、15時を過ぎている。約4時間、歩いていた事になる。
距離にすると16km程度か?確かに、足に筋肉痛の予兆が出始めている。
これはイカンと思い、急いで山科駅向かう。
JR山科駅前のお店は、何故か満員状態。仕方ないので初体験の山科駅地下へ向かう。そこで見つけたのは古き良き時代の印象を残す喫茶店。「全席喫煙」と書いたショーケースの横を通り、壁際の席に座り込みカレーを注文する。
しばらく休憩して時計を見ると、16時近くを指している。さて、ぼちぼち帰るかなとJR山科駅から新快速に乗り込む。
ドアが閉まり走り出した電車の中で「しまった!」と思った。
山科駅まで来た理由を一つ忘れていたのだ・・・
3年前に来た時に、京阪山科駅の自動改札の中で倒れていたICOCA人形がどうなったかを確かめるのを・・・
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