早すぎる朝と羽生くん
このところ、やたらと早くに目覚めることがある。
朝と言っていいのか、夜中と言っていいのか、悩むような微妙な時間である。
パチッと目が覚めると、2時40分。
私が子供のころからもっとも恐れている丑三つ時は過ぎている。 でも、トイレのドアを開けたらそこに恐ろしい姿で座っているらしい、四時ババが現れる時間には、まだ間がある。
だから、安心してトイレには行ける。 さりとて、トイレに行きたいわけでもなく。 どうしたものか。
このまま起きたら、きっと翌日がしんどくなるだろうから、やっぱり寝たほうがいいとは思うけど、眠れそうにはない。
身体だけでも休めておくかと、じっと目を開けたまま布団に居座ってみるが、それもすぐに飽きる。
本でも読むか、手紙でも書くか、ちょっと考えるが、あまり頭を使うことはできそうにない。
ならば寝ろ。
でも、眠れない。
と、こんな時は、料理をするのが一番である。
ありあわせの材料をとにかく切って、切って、切りまくって煮込む。
これで、夕食の用意が早くもできあがるわけである。
なんてすばらしい。
しかも、今の季節だと、必ず冷蔵庫にはトマトがあるので、なんでも煮込めば、とりあえず、トマト煮と名前がつくものができあがる。
今回は、なすび、まいたけ、たまねぎ、むね肉の塩こうじ漬け、そしてトマトが、冷蔵庫の中にあったので、ひたすら切りまくる。
にんにくとオリーブオイルも発見。
これで、もうばっちりである。
とにかく、切って、切って、そして炒める。
そして、煮込む。
ことこと煮込む。
そのころには、朝刊が配達されるので、それを読みながら、煮込む。
朝刊を一通り読み終わるころには、ラタトゥイユもどきができあがる。
そんな台所の様子を何も知らずに、6時過ぎに夫が起きてくる。
朝ご飯を食べながら、テレビのニュースを見ている。
真剣にニュースを見ていたかと思うと、「あっ。」とものすごく慌てだし、食卓から離れる。
仕事のことで、何かしなくちゃならないことを思い出したんだろうか。
となると、いつもより、早めの出勤か?
何か必要なものを用意し忘れたのか?
とか思いつつ、見守っていると、
夫は、いそいそと戸棚から、何やら大切そうに両手でささげもって、食卓にもどってきた。
「忘れるとこやったわ。」
手には、ケースに入ったあんころもちがのっていた。
「朝のデザートにしようと思ってたんや。危ないとこやったわ。」
と言いながら、あんころもちを二個、幸せそうにほおばる。
テレビのニュースでは、羽生結弦選手が、プロに転向するという会見の様子が流れていた。
羽生選手の会見での受け答えを聞いて、
「すごいなあ。羽生君。まだ27歳やろ。なんで、こんなにしっかりしてるんやろう。ぼくと、どこが違うんやろう。あっ。全部か。」
と、あんころもちで、口をもぐもぐさせながら、うなずいている。
こうして、朝早くというか、夜遅くというか、妙な時間にラタトゥイユもどきを作る妻と、朝から、あんころもちのデザートをほおばりながら、一人ぼけつっこみをする夫とで、我が家の朝は、スタートしたのであった。
羽生君は、朝早すぎる時間に目が覚めたら、何をするんやろう。
羽生君は、朝から、あんころもちなんか食べへんやろうなあ。