ぼったくりバー
娘が年中さんの頃、ギフとギマイとギマイの子(娘にとってはいとこ)の4人でおでかけすることがあった。
帰りの電車の中で、ギマイが気をきかせてくれて、しりとりで楽しませてくれていたそうな。
ローカル線とはいえ、京都からお帰りの人でいっぱいの電車の中。
でも、娘はわりとおとなしい方なので、とくに人に迷惑をかけるようなこともせず、静かにしりとりを楽しんでいたらしい。
娘もギマイもギマイの子も、それぞれにユニークなので、しりとりも思わぬ言葉が飛び出してきて、穏やかながらも、盛り上がっていたんだそうな。
私としても、そんな3人の様子が、容易に目に浮かぶ。
と、娘のターンの時に、「ぼ」という文字がやってきた。
「ぼ」のつく言葉。
すでに、「ぼうし」はでてしまったし、「ぼ」「ぼ」「ぼ」と「ぼ」のつく言葉をさがして、娘はかなり悩んでいたそうだ。
まじめなので、かなり苦しんでいたことだろう。
ギマイがなんとか助け舟をだそうとしたその時、娘がこれまでと打って変わって大きな声で、
「あった~~。ぼったくりーバー~~~~。」
と叫んだそうな。
ようやく見つけた「ぼ」がつく言葉。
嬉しくて、ほっとして、思わず大きな声が出たんだろう。
帰宅したギマイは、
「ほんま、びっくりしたわ。電車中に、ぼったくりバ~~~って言葉が響いとったもん。それにしても、いったいどこでそんな言葉を覚えたんや?」
と、大笑いをしていた。
一緒にいたギフは、マナーに厳しい人なので、終始無言だったらしく、帰宅後もいっさいその話には触れず。
まあまあ、インパクトのある言葉やもんなあ。
もしかしたら、ギフはぼったくられた過去があるんやろか。
よう聞かんけど。
ぼったくりバー。
覚えはあるあるである。
そのしりとり事件の少し前に、夫と娘と三人で近場の温泉地に一泊旅行をしていた。
その時に、忙しすぎる日頃の疲れを癒したいからと、ホテルのお部屋にてマッサージを受けたわたし。
温泉よりも、お土産買いよりも、お食事よりも、何よりも幸せなひとときだった。
わたしが、マッサージを受けている間は、娘と夫はそれぞれに好きにすごしていた。
部屋のテレビも、誰が見るとはなしに、なんとなくつけっぱなしになっていた。
テレビのボリュームも、控えめである。
時々聞こえるのは、私とマッサージ師さんとの会話の声くらい。
夫もほぼ寝そうである。
一人遊びも上手な娘は、こちゃこちゃとアメニティをおもちゃに見立てながら遊んでいる。
そんな中、急に、娘の可愛い声が
「ぼったくりバー」と繰り返しだした。
どうやら、テレビで、警察の潜入捜査の様子を放送していたようで、ぼったくりバーに踏み込み、実態を暴くとかいうもののようだった。
内容は、きっとわかっていないだろうけど、
「ぼったくりバー」
という言葉が、とても印象に残ったんだろう。
なんとなく、リズムもあって、勢いもあって、ちょっと楽しそうな言葉ではある。
意味はまあ別として。
その時は、それ以上に何もなく、わたしの幸せ時間の終了と共に、警察潜入捜査の番組も終わっていった。
その後、帰宅してからも、「ぼったくりバー」なんて言葉が、娘から聞かれることはなかったのに、しっかり残ってたんやなあ。
ギマイに、「ごめんなあ。」と言いながら、
ギフのご機嫌も伺いつつも、おかしくってしかたなかった。
後から、ギフのいないところで、「けけけけけけ~」と思いっきり笑い転げげとったもん。
昨日、俵万智さんの「ちいさな言葉」という本を読んだ。
赤ちゃんだった息子さんが言葉を獲得してゆく過程を、はっとしたり、へえっと思ったり、えっと驚いたり、ふふっと笑ったりと、面白がりながら歌人である母の目線で綴られたものである。
子どもの言葉を、その言葉を発する状況を、いとしく思う気持ちは母である私も同じではあるが、それを素直に心にすっとしみいる表現で伝えられているところに、さすがという思いでいっぱいになる。
息子さんは、ヘンな言葉は、一度聞いただけですぐに覚えてしまうそうだ。
これは、小さな人あるあるだろう。
お弁当屋さんになって、お客さんである母とのやりとりの場面がある。
「いらっさいませ~。いらっさいませ~。」
「元気の出るお弁当を、お願いします。」
なんて、素敵なやりとり。
「おいくらですか。」
「いちまんえん、ぼったくりです。」
一万円のあとにつける言葉を、ぼったくりだと思っているその頃の息子さん。
ふふふふふ。
やっぱり、「ぼったくり」って、誰にとっても心にしみるんやなあ。
このやりとりの後日談も素敵である。
「かなしいおべんとうも、ありますよ~。」
と、息子さんは、そんな新しいメニューを考え出したそうだ。
かなしいおべんとうか~~。
どうにも悲しくてしかたがない時に、かなしいおべんとうを食べてしまったからなあって思えると、いいなあ。
そういう時は、いそいで、元気の出るお弁当を食べなな。
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