ふんだりけったりMRI
大学病院でMRIを受けてきた。
わきの下にある、何やら不穏なものの正体を、暴くための検査である。
その日は、まず化学療法の注射を済ませたので、大量のお薬が太ももに溜まり、小山を作った状態で、MRIの検査室に向かう。
この小山は、時間と共に吸収されていくんやけど、何回見ても気持ちが悪い。
注射をする看護師さんも、
「すごいですね~~。」
なんて言うてる。
そうや、すごいやろ。
毎回、古墳みたいに太ももを盛り上げてるんやで~~。
でも、見せもんちゃうねんけど~~。
MRIが嫌すぎて、しょうもない言葉を心の中で毒づく。
検査のために朝ご飯抜きやから、よけいに機嫌が悪い。
そして、しぶしぶ検査室へと向かう。
そこでは、ものすごくていねいに、ものすごく早口で、てんこもりの内容を聞かされる。
いくらなんでも覚えられへんなあ。
これを全部覚えてられるのは、何歳くらいまでなんやろ~~。
もうちょっと、マニュアルの内容を考えた方がいいんちゃうか~~。
と、また憎たらしいことを考えていたら、
造影剤の注入を失敗される。
「申し訳ありません。申し訳ありません。本当に申し訳ありません。」
と、何度も看護師さんが謝ってくれる。
「いえいえ。
全然大丈夫ですよ~~。
平気です~~~。」
と、超にっこり笑顔で答えるわたし。
焦られて、もう一回失敗となったら嫌やしね。
落ち着いてほしくて、とにかく超にっこり。
防御反応です。はい。
2回目は、無事に針が刺さり、ほっとする。
それから、いよいよMRIの機械のベッドにうつぶせになる。
ベッドには、ちょうど胸のところに、二つ大きな穴が空いていて、そこに片方ずつ胸をしっかりと入れてくださいとのこと。
それも、できるだけしっかりと入るように、真上からどすんと下ろすようにしてくださいね~~と。
いやいや、待てよ。
こんなに大きな穴は、わたしには必要ないんよね。
むしろ、穴なんかいらんかもしれへん。
そんなことを思いつつ、マジンガーZの女性型ロボットになった気分で、なんとか胸を穴に合わせてみる。
そして、いよいよ、筒状の機械の中に入る時がきた。
何かあった時のためにと、ナースコールを握らされる。
が、ナースコールを握ると、腕が伸ばせない。
えっ?
と思って引っ張ってみると、
「すみませ~~ん。ナースコールの線が短いので、腕を曲げたまま持ってもらってもいいですか~~~。」
と、めっちゃ軽く声をかけられる。
いいも悪いも、しょうがない。
不自然に右腕を曲げたまま、筒状の機械の中へとベッドが動いていく。
案の定、狭い筒なので、あちこちに私の右腕は当たりまくる。
ガン ゴン ドン
いたいなあ。
なんとか筒の中におさまり、自分のポジション取りもでき、ほっとする。
すると、またもや、
「すみませ~~ん。ヘッドフォンを忘れちゃいました~~。」
と声がして、筒状機械からベッドごと出される。
ガン ゴン ドン
ヘッドフォンをはめられて、再び、 ガン ゴン ドン。
検査は30分はかかるらしい。
その間、こんな腕を曲げたままの不自然な姿勢で耐えられるか?わたし。
いやいや、無理やろ。
もし何かあれば、叫ぶか動けばいいや。
と、ナースコールを手放す。
や、やっぱり心細い。
でも、しょうがない。
こうなったら、音楽を聴いて気分を紛らわそう。
全神経を、ヘッドフォンに集中させる。
と、うんと遠くの山の向こうから、上品なクラシックの演奏が聴こえてきた。
ん?小さすぎんか?
いくら何でも。
遥か向こうの山すぎんか?
クラシックは、あっという間に、MRIの爆音にかき消されてしまった。
たのむわ。天下の大学病院さん。
疲れ切って、帰り道によったなじみのスーパーで、
レジの女性に何やら話しかけられる。
言っている内容がよくわからない。
再度聞き直すと、どうやら、シニアパスポートの申請をしたかどうかの確認やった。
そのパスポートがあると、指定曜日に買い物をしたら、5%お安くなるらしい。
わたし、もうそんな年齢になってるんやなあ。
もう還暦やしなあ。
しょうがないとはいえ、ちょっとがっかりしながら、シニアパスポートの案内を読む。
ひや。シニアパスポートって、65歳から?
65歳~~~~~。
ちょっと待って!
わたし、ほんの少し前に還暦を迎えたばっかりやのに。
5歳も歳をとって見えたんか~~~。
ちょっとちょっとどういうこと?
レジの方は、申し訳なさそうに、
「みなさんに、確認してるんですよ~~。」
と言ってたけど、そんなわけはないやろ。
あの幼稚園くらいの子どもをつれた女性にも確認したん?
このカラムーチョとコーラを買ってる学生服のお兄さんにも確認したん?
ちゃうやろ~~~~。
さっきまで、大学病院のことでプンプンしてたことなんて、もうどうでもよくなった。
私にとっての、その日一番のできごとは、シニアパスポートとなった。
検査の結果が心配なはずなのに、まだまだ日常の煩悩に支配されまくってるなあ、わたし。