【話題】萌えられない!?『いもいも』作画崩壊について
本記事では、『俺が好きなのは妹だけど妹じゃない』(以下、『いもいも』)の『作画崩壊』を取り上げます。
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本記事は、「徹底解説!『俺が好きなのは妹だけど妹じゃない』」の第6回です。第1回はこちらからご覧ください。
また、『いもいも』のあらすじを図解した第2回はこちらからご覧いただけます。
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三葉「今回は作画崩壊がテーマということで」
清水「はい」
三葉「すごい話題になっていましたよね」
清水「そうですね。原作者や制作者の方には辛いところだと思いますが、最早『<いもいも>といえば作画崩壊』という印象がありますね」
三葉「そのあたりをもう少し具体的に把握するために、Googleの『第2検索ワード』のランキングを作ってみました。ご覧ください」
清水「1位が『作画崩壊』、2位が『作画』ですか……」
三葉「もうね、ぶっちぎりで『作画崩壊』ですよ。『いもいも』について検索する人の多くが作画崩壊について調べようとしているわけですね」
清水「ふーむ……」
三葉「比較のために、同じ時期(2019年10~12月頃)に放送していた『SSSS.GRIDMAN』と『ゾンビランドサガ』についてもランキングを作ってみました」
清水「うーむ、『作画』というワードが見当たりませんねぇ……」
三葉「この表には15位までしか掲載していませんが、このままずーと下まで見ても『作画』とか『作画崩壊』というワードは出てこないんですよ」
清水「ほぉ……」
三葉「『いもいも』において、いかに作画崩壊ばかりが注目されてしまったか、十二分におわかりいただけたかと思います」
「作画崩壊」の実際
三葉「で、実際のところ、どんな崩壊具合だったのかというと……」
清水「『いもいも』においては、例えば以下のような『崩壊』が見られました」
三葉「うーむ……なるほど。『サービスシーンなのに萌えられない』なんて声も上がっていたようですね」
清水「本作は萌えアニメ、特に妹に萌えるアニメです。極論すれば、『妹のかわいさがすべて』といえるでしょう。そんな作品において、キャラのデザインが崩壊してしまったのは……まぁ、致命的といえるでしょうね」
三葉「ですよねぇ……」
清水「また、作画の古臭さも気になりました」
三葉「ほぉ。『古臭い』というのはどのような意味でしょう?」
清水「私が特に気になったのは目の描き方です。不自然なほどにキラキラ光る瞳は、昨今あまり見かけるものではありません。作画崩壊によって輪郭や髪型が崩れる中、それでも瞳がキラキラ光っているシーンは……うーん、なかなかどうして気持ち悪いものでしたねぇ」
三葉「なるほど」
清水「率直にいって、『作画崩壊』と『古臭い作画』から、深夜アニメが粗製乱造され始めた00年代前半の雰囲気を感じました」
『エロマンガ先生』の影響
三葉「『妹萌え』、『ラノベ作家』、『主要人物の奇抜なネーミング』など、本作は2017年にアニメ化された『エロマンガ先生』と類似性の高い作品だったといえるでしょう」
※「主要人物の奇抜なネーミング」:『いもいも』には「アヘ顔Wピース」、『エロマンガ先生』には「エロマンガ」というペンネームを持つキャラが登場する。詳細はこの記事で取り上げています。
清水「ええ」
三葉「『エロマンガ先生』は大変作画の美しい作品だったので、それと比較されたことで、本作の作画崩壊がより一層目立ってしまったのではないかという気がしますが、いかがでしょう?」
清水「一理あると思います」
制作現場の苦心
三葉「制作現場はまさに地獄だったようですね」
清水「でしょうねぇ……」
三葉「地獄っぷりの一端を伝えるのが、以下の古川監督のツイートです」
三葉「『エクソシスト』という表現に思わず笑ってしまいますが……まぁ笑いごとではないですよねぇ……」
清水「制作現場の苦心というか、苦労というか、工夫というか……は、作画にも表れていましたね」
三葉「ほぉ」
清水「特に7~8話あたりに顕著でしたが、少しでも作画を省力化しようという試みが見られました。例えば、『〇目』や『不等号目』を使ったり、メガネを光らせたりすることで目の描写を省略しようとしていましたね」
三葉「結果はどうでした?」
清水「効果はあったと思います。実際、7~8話は、それ以前と比べて作画が安定していました」
愛される「作画崩壊」
三葉「ネット上では、作画崩壊をネタにした盛り上がりが見られました」
清水「そうですね」
三葉「その中でも私が印象に残っているのは、『いもいも』にニックネームをつける遊びでして……」
清水「ほぉ」
三葉「例えば、同時期に放送されていたアニメ『転生したらスライムだった件』になぞらえて『アニメ化したらスライムだった件』とか」
清水「なるほど……」
三葉「これはキャラの作画が安定せず、シーンごと、コマごとに目の位置や輪郭、背の高さなどが変わってしまうことを『スライム』と表現しているわけですね」
清水「ええ」
三葉「また、2014年のアニメ『未確認で進行形』風に『未完成で進行形』」
清水「ふーむ……」
三葉「あまりの作画崩壊っぷりを『未完成』と称している次第で」
清水「……みんな上手いことを言いますねぇ」
三葉「いずれも不名誉なニックネームではありますが……」
清水「作画崩壊は無論困ったことです……が、必ずしもマイナスばかりではありません。結果的にプラスに転じることもあります」
三葉「ほぉ」
清水「例えば、世の中には『愛される作画崩壊』というものが存在します」
三葉「どのような作品が該当しますか?」
清水「そうですねぇ……比較的新しいところでは2015年にアニメ化された『聖剣使いの禁呪詠唱』でしょう。これもなかなか酷い作画でして……例えば、設定上は『9つの首を持つ怪物』のはずが、なぜか首が11本描かれていたり」
三葉「ハハァ……」
清水「また、主人公のアクションシーンが独特……というか、まぁざっくばらんにいって極めて安っぽいんですね」
三葉「ほぉ」
清水「ところが、これがとても愛されていて、放送時にはネット上で大いに盛り上がったものです」
三葉「へぇ……」
清水「また、『崩壊』ではありませんが、安っぽい作画が愛されたという意味では『けものフレンズ』も該当するでしょう」
三葉「なるほど。『いもいも』もまた『愛される作画崩壊』だったのでしょうか?」
清水「うーん……私の印象としては、『愛される』には至っていないように感じます。ただ、『注目を集める』、『多くの人が話題にする』という効果はあったはずです」
三葉「ふむ」
清水「もし仮に作画崩壊がなかったとして、果たして本作がこれだけ注目されていたかというと……私は怪しいと思います。私個人の感想としては、特段妹萌えアニメが好きなわけではないし、『キャラ設定や演出が秀逸』とも感じませんでした。したがって、作画崩壊がなければ最後まで見ていなかったと思います」
三葉「なるほど」
清水「ざっくばらんに言って……私が毎週視聴していたのは、作画の崩壊具合が気になったからであり、また、それをネタにネットで盛り上がるためです。無論制作者が望んだことではないでしょうが……その意味で、作画崩壊にポジティブな効果はあったと思います」
三葉「ふーむ……つまり、『崩壊寸前の危なっかしい作画は、まるでお茶目な妹のようで妹萌えアニメの本作には最適。視聴者もそんな妹から目が離せなかった』と……こういうわけですね」
清水「……いや、いくら何でもそれは楽天的すぎると思いますが……うーん、百歩譲ればそう言えなくもないのかもしれません……」
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最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。
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<コンテンツ>
・3:【ストーリー深読み】なぜ祐はラノベ作家になれないのか?
・5:【キャラ分析】『いもいも』の氷室舞と『エヴァ』のアスカの比較人間学
・6:【話題】萌えられない!?『いもいも』作画崩壊について
・7:【物語の仕組み1】秘密があるから距離が縮まる from『いもいも』
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(分析:清水、三葉 / 文、イラスト:三葉)
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