#8 / 手作り科学館 Exedra 館長 羽村 太雅さん「いままでの科学館では物足りない!体験を楽しみ専門家にも会える、コミュニケーションを重視した新しい形の科学館を手作りしました」
今回の &storiesは、柏100人カイギ Vol.8、100人カイギsummit2022にご登壇いただいた羽村さん。日頃活動されている「手作り科学館 Exedra」を訪れて、インタビューをさせていただきました。
「手作り科学館 Exedra」ってどんなところだろう
――100人カイギsummit2022で聞いた「手作り科学館 Exedra」。手作り×科学館という一見結びつかない言葉の組み合わせがとても気になり、館長の羽村さんに会いにきました。まずは運営団体発足の経緯などを教えてください。
団体の発足は13年前、2010年のことです。私が大学院生の時に、学生サークル「柏の葉サイエンスエデュケーションラボ」を立ち上げ、理科実験講座やサイエンスカフェなどのイベントを数多く実施しました。活動を続ける中で、まち作りや地域活性化に貢献できることをしたいという意見がメンバーの間で聞かれるようになりました。おりしも、一時的なイベントだけでなくいつでも科学に触れられる場所が欲しいという想いもいだいていたため、自分たちで科学館を作ろうと思いました。
柏の葉サイエンスエデュケーションラボには、専門分野の異なる様々な仲間がいます。私は惑星科学を学んでいましたが、他にも、生命科学や天文学、化学や物性物理学など、多様な専門分野を持った人が当時も今も、一緒に活動しています。だから私の専門分野だけを扱うわけではなく、いろんな分野の話題に触れられる場になっています。
手作り科学館 Exedraは今年、2023年の1月、開館から5周年の節目を迎えました。オープンは土日のみです。ご来館の際には事前のご予約がオススメです。天文学、生命科学、地球化学、物性物理学など、それぞれ専門の異なるメンバーが集まって手作り科学館 Exedraを運営しています。
興味深々。ところせましと並ぶ展示物
――「手作り科学館 Exedra」の展示室は岩石や骨格標本をはじめ、興味深い物たちであふれていますね。
生物の各種標本や岩石・鉱物各種、そして最新の科学に触れられる論文の解説など、いろいろなものを展示しています。展示物の紹介や解説をするのって、意外と難しいんですよ。一般的な科学館では、装置のハンドルを回すと光がつくハンズオンの展示物があったり、触ってはいけない大きな展示物の間を子ども達が走り回っていたりする光景を目にすることがあります。空間としては素晴らしいし、丁寧にひもとけば非常に学び多き展示ですが、十分なコミュニケーションができずに、来館者からは「よくわかんないけど楽しかった」という感想を引き出して終わってしまうこともしばしば。でも、それは展示制作者の意図とは異なるんですよね。もっと丁寧にコミュニケーションが図れれば、さらに学びを深めることができるのではないか。同じ展示物を目にしても人によって感想や学ぶ内容が異なるように、専門分野の異なるスタッフが解説すれば、それだけ多様な視点での解説を提供できるのではないか。より良い科学館体験を目指して、小規模館だからこそできる独自のアプローチを模索しています。
展示にはほとんどパネルや説明文が付いてないですよね。スタッフが常駐していて、来館された方とコミュニケーションをとりながら、それが何なのか、どこが見どころなのか、オススメの体験は何か、この展示の背景に隠された社会的な問題や展示に関連した分野で行われている最新の研究にはどんな成果があるのか、などコミュニケーションをとりながらお話しているのです。
疑問を持つことからスタート。一人一人の「わかった!」を広げ、深度を深めたい。パネルや説明文ではなく人間が介在する意図とは
――たしかに・・・展示物には説明のパネルがほとんどついていません。なぜでしょう?
人によって元々持っている知識の量や勘違いするポイント、話を聞いた時の理解度は異なります。そんな多様性のある来館者に対し、事前に用意した情報を披露するだけでは、それがパネルであっても動画であっても、どうしても一方向的な情報の伝達になってしまう。すると、基礎的な知識が足りないために解説を読んでも理解できない子どもとも、掲出された情報は既に知っているからもっと深い内容が知りたい大人とも、ともにコミュニケーションの齟齬が起きることになってしまいます。でも、そこにスタッフという「人」が介在してコミュニケーションを図れれば、目の前にいる方に合わせてお話することが可能です。
伝わらなかったからもう少し丁寧に解説しようかな、とか、このあたりはご存じのようだからもう少し先まで話題を広げてみようかな、とか、調整ができる。それこそがスタッフが介在することの最大のメリットです。
なぜアパートで科学館を?
――木造アパートかと思いきや、裏庭から建物に入ると科学館。一見しただけでは誰も科学館とは気が付かない建物ですが意外性を追求した演出なのでしょうか?
もともと学生団体でしたから、もちろん建物を手に入れられるほどのお金はありませんでした。科学館の維持・運営に必要な費用は多いものの、それだけの収益があげられる事業でもありません。そこで、維持費を抑えつつ、自分たちの理想に向けて優先順位の高いことは実現できるよう、科学館設立の夢と必要な物件の条件を周囲の人々に話し続けました。するとある日、条件にあう物件を紹介いただき、壁紙も床板もDIYで張り替え、壁も自分たちで壊してリノベーションし、開館にこぎつけました。夢を語り続けることの大切さを実感することができました。
館内の内装はもちろん、展示物もほとんどが手作りしたものや、自分たちで集めてきたものです。例えば骨格標本は、収集した個体を解剖し、骨を取り出して標本化して展示しています。日本周辺の震源地の立体地図もスタッフが手作りしました。手作り科学館 Exedraは、そうやって内装も展示物もひとつひとつ丁寧に作り、積み上げて現在に至ります。
ここには来館者が自発的にワクワクを見つけるきっかけがある。そして「知りたい!」をもっと深められる
――来館者の知が深まる「手作り科学館 Exedra」で人気のコンテンツを教えてください。
手作り科学館 Exedraは、館内が狭く展示物も他の館と比べると非常に少ないので、その分、体験プログラムの充実を図っています。原則として常時体験できるプログラムは10種類、ご用意しています。
その中でも化石発掘体験は圧倒的な人気があります。化石が入っているかもしれない約30万年前の原石を割って、中から化石を探す体験です。天然物の原石ですので、必ず化石が出るとは限りませんが、大きくてきれいな化石が次々に出てくることもあります。
他にも、手作り科学館 Exedraには「研究部」という活動があります。小中学生が実験や観察などを通じてジュニア研究者になることを目指すプログラムです。1年目には技術を身につけるトレーニングをおこない、2年目には与えられたテーマで探求学習プログラムに挑戦して研究への取り組み方を学びます。3年目以降に自分自身の問いを設定して大学生・大学院生のように本格的な研究に取り組むカリキュラムです。誰もが同じ進度で、必要とされる内容を順番にまんべんなく学ぶ公教育ももちろん必要だし、それは極めて重要ですが、手作り科学館 Exedraは民営ですので、それぞれの関心や個性を活かして興味を深めることも、大事にしたいです。
まちを巻き込み、ミニチュア太陽系を歩いて科学を学べる地域活性化イベント
――最近は「かしわ太陽系ウォーク」という企画にも取り組まれたと聞きました。どんなことをしたんですか?
柏のまちづくりを手掛ける、かしわアーバンデザインセンターと共に、柏の駅前を13億分の1スケールのミニチュア太陽系に見立てたまち歩きスタンプラリーを開催しました。
柏駅には1 mの巨大な太陽を、まちのお店にもミニチュア太陽系内でのそれぞれの位置に関連した様々な展示を配置しました。お店を巡ると、太陽系のスケールを体感でき、展示を見ることで学びにもなる仕掛けです。各店舗でスタンプをゲットするためには、それぞれのお店でお会計をする必要があります。スタンプ設置店には、子どもに経験してほしい特徴的な体験をご用意いただきました。例えば魚屋さんでは「魚を一尾まるごと買って解剖してみよう」ですとか、本屋さんでは「宇宙に関する絵本や本を買って読もう」などの体験を提案しました。子どもたちが学びと体験のために大人を連れまわす地域活性化イベントです。約2か月間の会期中には、最接近した火星や月食を観察する天体観望会、ならびに天文学者や惑星科学者、人工衛星のエンジンを開発している研究者などの講演会も開催しました。
柏は自然豊かな農村部と最先端の科学技術を感じられる文教エリアが近接した魅力いっぱいのまち
――マンション広告でよく柏の葉の物件を目にしますが、柏の魅力を具体的に教えてください
柏には魅力的なエリアや施設群がたくさん有ります。サッカーやラグビーをはじめとするプロスポーツチームやそのホーム施設、最新の科学が研究されている東京大学柏キャンパスをはじめとする研究機関、商業の街として栄え個性的な個人店も多い柏駅前、豊かな自然が残る手賀沼湖畔の農村部など、枚挙にいとまがありません。マンション建設をはじめスマートシティとして開発が進む柏の葉は魅力的なエリアですし、都心までのアクセスの良さも強調されることがありますが、このまちに暮らす方々にとって「自分たちの生活の場」として多様な価値が見つけられる素敵なところではないかと思います。ぜひ、地元に魅力を見つけてほしいですし、科学や文化の香りが、それを探す際の道しるべになってくれればと願って活動を続けています。
科学コミュニケーションが社会に貢献できること
――科学に触れられることは、柏の魅力あるコンテンツのひとつになりつつあるのですね。
そうありたいと、努力を続けてまいります。
研究者に会って話ができたり、最新の科学に触れられたりする機会や場を作るのは、我々の重要な取り組みのひとつです。
ただ、それだけではなく、社会課題に対して科学の視点を提示することで、問題を可視化・自分ごと化してもらったり、持続可能な取り組みを生み出したりすることができるのではないかと考えています。
例えば日本からは、むかし食物連鎖で重要な役割を果たしていたニホンオオカミが人間の活動の影響を受けて絶滅しました。その結果、増えすぎたシカやイノシシによる獣害は日本中で問題になっています。千葉県では特定外来生物のキョンが数を増やし、生息域を広げていることが大きな課題のひとつです。しかしこの問題は、都市部の人にはまだあまり知られておらず、自分ごと化もされていません。でも、駆除された野生動物の毛皮や骨などを科学館やまちなかに展示することで、目をとめてくれた方が興味を持ったり、問題に気付いたり、グッズを手にした方がそれを介して他の方々に情報発信してくれたり、子ども達が学習のために教材として標本などを利用する過程で獣害問題を意識したりと、我々がこの社会課題を扱うことで、少しずつでも課題解決に貢献することができるのではないかと考えています。
こうした取り組みを通じて、科学コミュニケーションという手法が役に立つものであるという理解・認識を広げ、いずれは科学が応援され、研究に予算がついて研究者が自由に真理を探究できる社会にしていきたいと考えています。そのために、事業がサスティナブルに回っていく仕組みを作っていきたいですね。
100人カイギsummitがきっかけで生まれた新たな展開-コラボ企画 SDGs謎解き
――虎ノ門ヒルズで開催された100人カイギ summit2022に羽村さんが登壇される1年前には、手作り科学館 Exedra副館長の宮本さんも登壇されていましたよね。その時、同じセッションで登壇した4人の組み合わせが絶妙で、登壇者4人がアフタートークでとても盛り上がってらっしゃったのが印象的でした。
科学館を一緒に運営している副館長の宮本が100人カイギsummit2021へ登壇したのをきっかけに、同じくセッションの登壇者で謎解きクリエイターの日景さんと2つの自然体験&理科学習を楽しめる謎解きプログラムの開発ができました。1つ目は、柏市内にある大きな自然公園で、小学生たちに自然体験を楽しんでもらいたいし、柏という街のことも学んでほしい。そしてもちろん、理科の学びも得てほしい。それらを一度に全部かなえられるよう、謎解きと理科実験を組み合わせたプログラムの開発に乗り出しました。全体の設計と理科実験・学習プログラムの開発は我々がおこない、日景さんに謎解きを作っていただくという役割分担のコラボレーションが生まれました。2つ目は、オンライン理科実験講座です。水の不思議について考え、謎を解きながら学ぶ実験講座で、まさに両者の強みを兼ね備えた取り組みになったのではないかと自負しています。参加してくださった皆さんからも、大変ご好評いただきました。
我々にとっては科学に謎解きという新たな要素を加えることができ、まちや公園にとっては公園の利活用の幅を広げられ、子ども達には新たな楽しい学習のチャンスを作ることができました。
地球外生命をてのひらに
――最後に羽村さんが見たい未来について教えてください。
わたし個人の夢は、死ぬまでに地球外生命をてのひらに乗せることです。その実現のために研究室の門をたたいたと言っても過言ではありません。また、地球外生命に関することでなくても、未知との遭遇には心躍ります。そこで、次世代を育成ならびに社会教育に従事しながら、子ども達とともに自分も研究に取り組んでいます。先述した研究部の取り組みです。手作り科学館 Exedraは、5年前、大人がワクワクする場を目指して開設しました。現在は親子連れの方のご利用が多くなっていますが、大人の方も楽しめる場であり続けたいという思いは持ち続けています。
最近、社会ではリスキリングという言葉が話題になっていますが、大人の学びというと資格取得や仕事に必要なスキルアップをイメージされる方が多いようです。もちろんそれも重要ですが、もっと大人が自由にワクワク学ぶことを楽しめる場があってもいいのでは、と思っています。大人たちが、子育てや介護を優先して、自分のことは後回しにしている様子を見ると、なんだか少し寂しさをおぼえます。日ごろ、科学に触れる機会の多くない方々も、楽しく科学に触れあいたくなる仕掛けを作っていきたいですね。
手作り科学館 Exedraは、大人もワクワクする場であり続けたいと思っています。ともすると役に立たないと言われることもある基礎科学が、応援・支援してもらえる社会を、草の根から作るため、社会と市民を科学でつなぎ、人々を巻き込みながら科学の現場を見てもらう取り組みを、これからも続けてまいります。
――柏へ行けば、科学はもっと面白くなる!羽村さんのお話から、丁寧に展示物を作り一人一人の知を深める新しいかかわり方を知りました。夢や情熱を人に話すことで、新たなご縁がつながるきっかけになったり、異業種とのコラボレーションによって新たな価値や体験を創出したり。人に会って心と体を動かすことはとても大事なのですね。
夏はじっくりゆっくり学びを深められる季節。お子様を連れて、または大人の方もこどもに戻った気持ちで「手作り科学館 Exedra」へご来館ください。事前の予約がオススメです。予約枠はすぐに埋まってしまうので、ご予約はお早めに!知りたいというワクワクを胸に都心から約30分。科学と自然を楽しめるまち柏で、この夏、知を深めてみてはいかがでしょう。
聞き手:今川智広・Junko Honma
文:今川智広
写真:羽村 太雅さん・ Junko Honma
100人カイギ & stories ライター
100人カイギ Official Web Site
100人カイギ SNS
instagram
Facebook
Twitter
YouTube
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?