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磯野波平と女子高生バンド

 一緒にバンドをやりませんかと誘われた。
 自分のバンドは、学生時代にやっていたのが2018年に復活したけれど、コロナ騒動で動けないでいる間に松井が仕事の都合で随分遠くへ引っ越した。だからもうよっぽどできないだろうと思っているので、誘ってもらえるのは大いにありがたい。ただ、メンバーが全員女子高生なのは考えものだ。場合によっては通報されかねない。

 昔、先輩の柏さんが、自分の同級生の女子バンドからヘルプ加入を求められて随分嬉しそうにしていた。あんまりニヤけているものだから、「ニヤけてないで、しっかりしてくださいよ」と云ってやったら、「うるさい」と返って来たので驚いた。いつかうんこと一緒にトイレへ流してやろうと決めた。
 あの時の柏さんも痛々しかったが、こちらはどうもそれ以上だろう。全体、五十面さげて女子高生バンドに加入するなんて、到底できるものではない。
 誘ってくれたのは嬉しいけれど、もっと相応しい人がいくらもあるからと断ったら、先方は「そうですか」とあっさり諦めた。もうちょっと粘れよと思ったが、そう云うのも格好がつかないから黙っておいた。
 結局彼女らは、自分の代わりに頭髪の薄い、磯野波平のような五十男を加入させた。どうも五十代の枠が設けてあったようですよと、後になってカナメ君が教えてくれた。
 それにしても、自分の代わりが磯野波平なのは気に入らない。自分だって別段見栄えが良いわけではないけれど、波平よりは少しく上だろう。ギターの腕前は知らないが、もう少し考えてもらいたい。

 そう思ったところで、何だかじりじりしながら目が覚めた。目覚めた後までじりじりした。朝ごはんを食べた後も、しばらくじりじりして困ったので、駅まで向かう途中で磯野波平みたいなおじさんがいたら踏み潰してやろうと考えたが、いなかった。
 そうして出社をしたらもう忘れた。


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百裕(ひゃく・ひろし)
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