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移動飲食 その2

 前回、駅の立ち食いうどんのことを書いた。
 それに付随して思い出したことがあるから、今日はそのことを書いておく。

 高校時代、塾帰りに駅のホームでうどんや蕎麦の立食いをちょくちょくやった。菓子やパンなどでなく、その場で調理されたものを自分の金で食べられることが、大人になった感じで嬉しかったのだろう。
 ある時、電車の時間の五分前に店へ入った。
 入口で天ぷらうどんの食券を買って、カウンターのおばちゃんに渡すと、おばちゃんは早速ちゃっちゃっちゃっとうどんを茹でて、迅速に提供してくれた。それをやっぱり迅速に食べてホームに出ると、ちょうど電車が入って来た。
 事によると間に合わないかと思っていたが、あんまりぴったりのタイミングだったものだから、大したものだと自分で感心した。
 広島駅の立喰いでは、そのホームの店が一番美味かった。特に天玉蕎麦が美味かったと記憶している。ただ、何番ホームだったかは忘れた。

 別の時、やっぱり塾帰りの電車で和服のじいさんに出くわした。和服と云っても改まったものではない。磯野波平みたいな着流しである。頭に山高帽をかぶり、フクロウみたいな眼鏡をかけている。
 じいさんは電車が動き出すとふらふら席を立ってトイレへ入った。
 このトイレは内側から施錠すると「使用中」のランプが点く。ところがそれが一向灯らない。どうやらじいさんが施錠をし忘れているらしい。
 何事もなければ良いがと思っていたら、隣の車輌から来たおばさんがトイレを開けた。
 そうしてすぐ閉めた。
 じきにじいさんが、どうして開けるんだと云うような顔をして出て来た。

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百裕(ひゃく・ひろし)
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