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猫の餌

 大学時代、筑波が一人暮らしを始めたというので、その部屋が早速みんなのたまり場になった。
 集まるのが音楽サークルのメンバーだからどうもたちが悪い。酒を飲んで大騒ぎをして、隣の部屋から苦情が来たら、腹いせに嫌がらせをするような者もある。そのことで苦情を受けて平謝りに謝った筑波が「お前らいい加減にしろよ!」と怒ったけれど、当人がそもそも酒で失態を重ね続けているのだから、一向説得力がなかったろうと思う。

 ある時、やっぱり筑波の部屋で集まって飲むことになり、行ってみたら木寺と宮田と山下の他に猫が二匹いた。
「何だこの猫は?」
「友達から預かった」
「そうか」
 近くへ来たら撫でてやろうと思うけれど、あいにくなかなか寄って来ない。その癖、二匹とも筑波には擦り寄って行く。どうもあんまり面白くない。
 その内に猫は筑波のベッドで寝始めた。

 じきにつまみがなくなった。
 木寺が「まぁとりあえず、キャットフードでもつまもうか」と言い出したので、その場の空気で、みんなで食った。袋から二粒三粒を食って隣へ回した。ノリで「うん、美味い」とか「おぅ、いけるな」とか言ってはいたが、実際は一向美味くないから、一度食ったらそれぎりである。二度と手を出す者はない。
「おい、山下、お前、食うふりだけして実際食ってないだろう?」
「バカな事を言うな、食ったに決まってる」
「証拠がないものは認められんぜ。もっともらしい事を云うのは本当に食ってからにしろよ」
「百、お前いい加減にしろよ。全体、お前こそ食ってないだろう」
「これから食うさ。おい、君たち、俺は今から三粒食うぜ。食ったふりで逃げるやつとは一緒にするなよ」
「おう、その意気だ」と、木寺と宮田が手を叩いた。山下は不貞腐れた顔でテレビを眺め、筑波は黙って何だかポリポリやっていた。
 キャットフードは随分不味かった。三粒食って随分辟易した。
「さぁ、後は山下だけだ」
「食ったってば」
「お前、往生際が悪いぞ」
 すると黙って何だかポリポリやっていた筑波がいきなり怒り出した。
「おい! 木下! お前、さっきから俺のキャットフードをバカにしやがって!」
 それで気付いたけれど、筑波は先刻から一人でポリポリキャットフードを食い続けていたのである。
「あいつ、素で食ってたぞ」と、木寺が小声で言って来て、自分は酒を吹きそうになった。
「木下って誰ですか」と宮田が言って来て、ますます吹きそうになった。

よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。