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相応

 郊外へ電車通勤していた頃は、いつも帰りにコンビニで缶ビールを買って、車内で飲んだ。飲まない日はおにぎりを一個買って車内で食べた。それが自分の中で一日の締め括りになっていたのだろう。

 ある時、ビールの代わりにトリスハイボールを買って電車に乗った。
 自分はあんまりウイスキーを薄めて飲むのは好きでないけれど、何となく買ってみたら随分美味くて感心した。向後もハイボールで一日を括ろうかと思っていたら、次の駅で向かいに座ったおじさんも手に缶を持っている。見ると、同じトリスハイボールである。何だか急に恥ずかしくなって、斜めを向いてさっさと飲んだ。
 それぎり帰りにトリスハイボールを買うのは止したけれど、ビールはその後も買い続けた。

 今は同じ電車通勤でも、街中の地下鉄だからこんなわけにはいかない。全体、酒を飲むには適した場所があるので、相応しくない場所で飲むのは中毒患者か、ただの阿呆である。

 大学時代に、同じ学科の友人らと学内で昼間に花見をした。
 この時は岸戸が調子に乗って随分飲むようだったから、周りもやっぱり調子に乗って随分勧めたら、岸戸はトイレの前で嘔吐した。
 翌日、掲示板に岸戸の名前が貼り出された。学部の事務室へ来いと云うのである。

 事務室の河島英五みたいなおじさんから随分怒られたと云って、岸戸がぼやいた。「君ね、学校は酒を飲んでゲロを吐く所じゃないんだよ」と云われたのだそうだ。
「それはそうなるだろう」「あんなに飲んではしようがない」「学校で吐くのだもの」「全体、お前は飲み過ぎだ」と、飲ませた自分らが口々に岸戸を批判した。

 

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百裕(ひゃく・ひろし)
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