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4つめのリング
四時から商談の約束だったけれど、最寄りの駅へ二時前に着いた。駅から客先へは歩きで十分ぐらいの距離である。
昼食がまだだったので、駅前で何か食べてから、カフェでメール対応などをして行く算段だったけれど、食事の前に何だか方々から電話がかかってきた。それぞれに対応して落ち着いた時にはもう三時を回っていたので、これから食事をして行くことにした。
元々、昼食はラーメンにするつもりでいたが、人に会う直前のラーメンは匂いが残りそうであんまり気乗りがしない。だからラーメンはよして、客先の隣のビルでミスドに入った。
フレンチクルーラーとオールドファッションとポンデリングをトレーへ乗せてレジに出そうと思ったら、レジの隣でポンデリングのバリエーションを見付けた。元来ポンデリングは好きである。独特の食感がいい。
昔知り合いのパン屋がポンデリングをバラしたような小さいパンにきな粉をまぶしたのを売っていた。何だかパンというより餅を食っているような案配で、「これは、餅みたいで随分美味いじゃないか」と感心したけれど、最初から餅を食えばいいのだと気が付いてから買うのを止した。
ただしそれはパン屋の話で、ミスドには関係がない。結局ポンデリングのバリエーションも一個、トレーに載せてレジへ渡した。
女性スタッフが「お持ち帰りですか」と訊いて来て、イートインだと云ったら、「……ドーナツ四個、店内でお召し上がりですね……?」と変な顔をした。
四個でも五個でもこちらの勝手である。おやつで四個は多いかも知れないが、食事の代わりなのだから別段多いと思わない。不思議がられる筋合いはない。
少しく癇に障ったが、考えてみればこちらも事前に「これは食事ですよ」と断ったわけではない。そもそも三時は一般におやつの時刻である。
そう考えると、先方が怪訝に思うのも道理だから、これは自分も悪かったと反省した。
ただしその反省は黙って心の中でしたので、先方には伝わっていない。結局あのレジ係は、自分をただのドーナツ好きのおやじだと思ったろう。
段々、何だか恥ずかしいような心持ちがした。
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