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【大賞発表直前仕様】逆噴射小説大賞2024ピックアップ

 RTGです。いつも大変お世話になっております。
 手短に言います。今夜決着です。



 大変です。時間がない。何の時間がって決まってるじゃないすか、応募作をピックアップする時間がですよ。
 前々からピックアップ記事を書きたいとは思っていました。しかし遅筆&長文&忙殺という三重苦によりいつまで経っても筆は進まず、そうこうしていたら最終局面に突入していたという体たらく。もうダメだ。後がない。

 別に大賞発表後にピックアップ記事を書いても問題ありません。むしろ励行したい。
 ですが、物事には旬があるのも事実です。二次選考を終えて大賞発表を迎えた、このタイミングだからこそ触れておきたい作品がある。具体的にはこの二種類。


①二次選考突破してくれてうれしかった作品
②個人的優勝候補


 今回のピックアップ対象作は、すべて上記のマガジン収録作からチョイスしたものです。
 ふだん記事を書くときはけっこう推敲していますが、今回はそんなヒマありません。乱文や走り書き、無礼な表現になることをお許しください。何しろ生き急いでいるもんで。




①二次選考突破してくれてうれしかった作品


1.月で睡る

 第一回からの参戦者、居石信吾さんの作品。どえらい実力者にもかかわらずここ2年ほど二次選考で涙を呑んでおられただけに、今回の突破はとても嬉しかったです。
 ジャンルは居石さんお得意のファンタジー。ジュブナイルの切なさとサスペンスの不穏さが同居した多層的な味わいがすごく良い。「多層的な味わい」、つまり異なるジャンルの旨味がクロスオーバーしてるってことですが、それを800字制限下でやるって冷静に考えたらすごない????? 自分には無理です。ふつう込められる旨味は一つだけなんですよ。なんだこの謎テクは。
 あとめちゃくちゃ興味深かったのが文体。特徴のない平易な、ゆで卵のようにつるんとした語り口。それでいて情緒がある。人の手及ばぬ遠いところ、それこそ月にでも吸い込まれていきそうな不気味で切ない味わいを感じさせる。
 これは自分の引き出しに存在しない代物です。何度脳内検索してみても似たようなテイストの作品が見つからない。自分の浅学さを差し引いても、これはかなりすげえ芸当ではなかろうかと思います。すげえ(語彙力)。

2.老刃と銃禍鬼。

 昨年の応募作『PentaCloth 126』を読んでめちゃくちゃ印象に残ったお方。小説の作法は色々外してるけど何かすげえな、イマジネーションが炸裂しまくってんなと。実際逆噴射聡一郎からも「小説ではないが詩としてカッコいい稀有なケース」という唯一無二の褒め方をされていたのがすごかった。
 それで本作ですが、持ち味のイマジネーションはそのままに小説としてアジャストしてきた感がありました。付喪神やバケモノと化した老人同士のバトルものという設定も面白いし、何より当て字(固有名詞のもじり)のセンスが好き。堕魔透ダマスカスという名詞を見た瞬間一発で惚れました。魍魎戦記MADARAとかサザンアイズとかの、90年代和風伝奇のような濃いテイストが全編に漲っている。個人的にツボ。
 あとはまた文体の話ですが、句点(。)を使わなかったりセンテンスの途中で段落を分けたりと、やはり通常の作法から外れた点は目立ちます。でもこれで良いと思う。だってカッコいいもん。憶測ですが、作者の方も「この書き方が手になじむ」「この書き方がカッコいいから書いてる」と思われているのではなかろうかと。実際自分もこの文体のままで続きを読みたいです。乾いていてCOOL。

3.概念喫茶「昭和」

 個人的に、二次選考を突破してくれて一番嬉しかった作品がこれ。
 自分は大の喫茶店好きです。それもオサレなスタバ系とかあるいはシックなやつじゃなくて、昭和の遺物みたいなド渋い純喫茶。本作はそういう純喫茶の渋さ具合、昭和の遺物具合を完璧にスケッチしてくれている。とにかく調度品の描写が逐一最高なんですよ。「紅葉があしらわれた小粋なガラス障子」とか、読んだ瞬間ガッツポーズしましたもん。うおおこの人よく分かっておられる!!!!! って。
 そういう昭和ド真ん中の存在たる純喫茶、これをVR世界で再現する。このアイデアの妙も素晴らしい。これは個人的評価というより賞の評価ポイントの話ですが、現代性ある要素をうまく用いることができれば高評価につながると言われています(もちろん物語として面白いことが前提ですが)。過去の遺物を最新技術で蘇らせるという着眼点、これはマジで上手いわと唸ったものです。
 描写力も高いしアイデアも良い。閉じたVR世界に何者かが侵入してきたヒキも興味をそそる。自分の趣味を差し引いても面白いんだよなあ、選考通過してくれないかなあ。そんな風に思っていたら本当に通ってくれました。とてもうれしい。バンザイ!!!!!

4.MEINE×MINE:わが鉱山

 自分は泥臭いテイストの作品が好きです。ロボットアニメで言うと『ガンダム』より『ボトムズ』。ヒロイックなのも良いですが、無名のモブが必死に生きている姿にはやはりグッと来てしまいます。
 その伝でいけば、この作品は良いです。滅法良い。
 主人公は塩で出来た山で塩を掘る鉱夫ですが、これがマジでただの鉱夫。家柄も学もカネもない、ただただ日々の糧を得るためにツルハシを振るう、ただそれだけの男。鉱山の中でコボルトと遭遇すれば無様な泥仕合を繰り広げ、どうにか倒したあとは冷えた握り飯にかぶりついて疲れを癒す。
 何というか、物語的な格好つけが微塵も見られないんですよ。主人公の描写に。肉体以外には何の背景も持たない労働者の姿を淡々と、かつ的確に描写している。それがカッコいい。不自然な格好つけがないからこそカッコいい。
 賞のメタ的な話をすると、この主人公像で800字バトルを戦うのは勇気が要りそうです。パッと見でわかる派手さやキャッチーさがないのもそうですし、その裏返しとして、行動でキャラの魅力を示せる筆力が求められるのも大きい。書き手にとって負担のかかる主人公像をしっかり魅せてくれた、その業前にも称賛を贈りたいです。

5.夕日は血の色

 東北男子高校生パルプ。これもめっちゃ良い。ド田舎限界集落育ちの人間としてシンパシーしか感じない。
 「わりぃおそぐなった」まずこの一言でスマホをスクロールする指が止まるわけですよ。なんだ誤字か? それとも訛りか? って。そのまま読み進めたら今度は「いいよ、どうせなげるやつだから」というセリフが。東北~北海道圏ではなげる=捨てるという意味のようですが、作中では何の説明もされていません。文脈で理解するしかない。これがまた良いんですよ。生のままの方言を使うからこそ強いREALさが生じている。東北を知らない九州人の自分でも(あるいは、だからこそ)東北というMEXICOに連行される。こういうの大好き。
 あとですね、兎にも角にも描写が上手い。廃屋内の朽ちかけた調度品、吸い殻でいっぱいになったペットボトルの灰皿、差し込む西日。どれもこれもが煤けていて、侘しい。娯楽施設なんて皆無のクソ田舎に押し込められた高校生の鬱屈が嫌というほど伝わってくる。「つまらない。なにも面白いことがない。この部落は。」そりゃあそうだろとしか言いようがありません。説得力が違いすぎる。
 後半、高校生三人組の一人が「草刈り機で熊ぶっ殺して骨をネットで売ろう」なんてアホな提案をして、それに主人公も乗っかります。これね、笑えるけど良いシーンですよ。極論を言えば目的は熊じゃないんです。どうしようもない退屈を殺すこと、視えない膜に覆われたような閉塞感をぶち破ることこそが目的なんです。
 有益とか無益とか関係ない。本来有り余っている、それでいて押し込められているエネルギーの注ぎ込み先が見つかったからそこに全力をぶち込む。そういう姿勢に思わずテンションが上がりました。"青春"って、たぶんこういうことです。

6.みかぱんち! または『シスター系Vtuberみかちょ』は如何にして地上最高のスーパーヒーローの栄誉に輝いたか

 いきなりですが、『カチ盛り』という言葉をご存知でしょうか。スロットのコインをドル箱限界までギッチギチに押し込む入れ方のことです。自分はパチもスロもやらないのですが、昔付き合いで行ったスロットで先輩がこれを実践しているのを見て目をひん剥いたものです。マジで一分の隙もないくらいドル箱がギッチギチなんですよ。興味があったら調べてみてほしい。
 本作を読んだ時、まさにそのカチ盛りを思い出しました。情報の積載量がイカれてる。
 Vtuber、シスター、異能力、格闘ゲーム、放火魔、そしてマッチョ。こうして並べるだけでも胸焼けしそうな情報過多ぶりです。これらの旨味を全部800字に収めて、なおかつ小説として成立させる、違和感なく物語を楽しませるだなんて無茶な話ですよ。
 でもこの作品はやれてるの。全部800字に収めて小説としても面白い仕上がりになってんの。なんで??????
 
いやーマジで意味がわからん。書き手の目線で見たら絶対無理なんですよ。これ自分が書いたら単純に字数オーバーするか、あるいは違和感のない物語としては破綻します。どういう設計図を引いたのか想像できない。さながら上海雑技団ばりの離れ業です。
 賞レース上のセオリーじみた話になってしまいますが、情報の過積載はやめといた方がいいよとよく耳にします。情報や要素は増やせば増やすほどコントロールが困難になる、つまり800字制限下の冒頭として成立させづらくなるのがその理由かなと。
 でもこの作品は情報をコントロール仕切って小説として成立させている。その結果、他ではお目にかかれないレベルの個性を獲得している。ここまで仕上がっているからには評価されてほしいなあ。そんな風に思っていたので、今回の選考突破はうれしかったです。他に類を見ない点では歴代の応募作でも屈指だと思います。

7.ぶん回せ!

 文体のリズムが秀抜。この一言に尽きます。
 先に細かいことを言うと、立ち上げ方も上手いんですよ。いきなりビルの屋上から突き落とされそうになっている、しかも両手を縛られているという詰み寸前のシーンから始めて、そこからいかに生還するかというホットな出だし。ただそこからがちょっとおかしい。

「しかしその前に、俺の背後にいる半グレだか全グレだかを片っ端からラリアットして一足先にビル下のアスファルトに叩き込みたい。その上で俺の自由意思で自由落下し、先に落下したグレグレ達を緩衝材にして無傷生還を決めたい。決めたいのだ。」

 なんかね、生死の瀬戸際だっていうのに全然緊迫感がないの。こんなんただの妄想ですよ。でもその妄想をマジに実現しようと動きだす。

「俺の両手は腰の後ろでがっつり縄で括られており、実際どうにも動かしようがないのだが、ゴリラよろしく腕力の先祖返りを起こして縄を引きちぎり、三倍くらいに膨れ上がった上腕二頭筋でラリアット祭りを決めたくて仕方がない。」

「うるせえよ。決めた決めた。突き落とされる瞬間に俺は足でラリアットを決める。腕だけがラリアットではない。お前がゴミセンスで身に着けたドルガバだか何だかのガバガバベルト目掛けて全力で足を回す。」

 言動のすべてがラリってる。でもラリっているなりに本気なのは伝わる。
 読んでいて思われたかもしれませんが、どの文章も極めてスムーズです。率直に言えばラリ公の非現実的妄想の垂れ流し、それでいながら風呂上がりに飲むポカリのように一切の抵抗なく入ってくる。これは間違いなくリズム感の成せる業です。こういうスキルは特定の作者を読み込むというより、それまでの読書量そのものに拠るところが大きいと思っています。自分も文体のリズムにはかなり気を使っていますが、ここまで流れるような言い回しは書けません。降参です。

 すでに各所で公言していますが、この作者は自分の友人です。
 友人曰く「酒に酔った勢いで書いた代物だから気恥ずかしい。応募するのは気が引ける」とのことでしたが、自分はこれを応募しろと強く推しました。だって単純に面白いし。あと日頃から聞いている酔った友人のクダ巻きが、パルプとしてどこまで通用するかを見てみたかった。
 そういうわけで二次選考突破してくれてうれしいです。友人は良い仕事をしてくれました。えらいっ。



※以下、執筆タイムリミットの関係上①に比べて感想文が短いです。誠に申し訳ありませんがご容赦ください。


②個人的優勝候補

1.クラゲを海へ捨てに往く

 21年度大賞からの参戦者、朽尾明核さんの作品。初参戦以来、全ての年度で最終選考入りを果たしている恐るべきパルプモンスターです。
 本作は「飽きる」ということに無縁です。頭からつま先までの一切が読者を楽しませるために描かれています。
 具体的に見ていきます。①主人公が損壊死体を山に捨てに行く。②死体が目覚める&海が見たいから連れて行けと言う。③しゃべる損壊死体との二人旅が始まる。④警察の職質。⑤職質した警官が撃ち殺され、さらには主人公まで狙われる。これだけの要素を800字制限下ですべて収め、それでいて自然な文章の読み味が損なわれていない。雑味なく、ただただスリリングな状況を楽しむ旨味だけが詰まっている。驚愕の業前です。
 本作を一読した時、即座に『お手本』だと思いました。800字制限下で非日常シーンをふんだんに盛り込んだ、読者を決して飽きさせない作品。逆噴射小説大賞応募作のお手本、範とすべきモデルケース。その一つが本作であると。以上の理由から推すものです。

2.父買う夜市

 ホラー作家、木古おうみ先生の作品。書籍化や原作コミカライズも果たされている正真正銘のプロ作家です。
 この世ならざる異界の夜市、誰も見たことのない舞台をありありと想像させるイメージ喚起力も凄まじい。でも真にヤバいのは発想力だと思います。父無しの家庭のために父親が売られているという設定は色々ネジが外れていないと出てこない代物です。
 アマチュアがプロと戦うにあたって、プロに技巧で劣るぶん、荒削りでも光るアイデアで勝負するという展開を漫画とかでよく見てきました。でも現実は違います。超絶技巧なんて持ってて当たり前、常人に出せない発想を出せるからプロなのだという事実を突きつけられた気がしました。これでメシ食ってる人の凄みを見せつけられたように思います。
 すでに各所で絶賛されている作品ですが実際ハンパない。おどろおどろしくも華々しい、百花繚乱の黒薔薇めいた800字です。

3.七日間の炎の華

 第一回目からの参戦者、ドントさんの作品。これまで何度も最終選考に残ってきた実力者ですが、本作もやはり凄い。
 ロマンと詩情を乗せた前半と、怒りと暴力渦巻く後半。それぞれ別作品かと思うくらいテイストに開きがある各パートを、『炎』というワードで緊密に結びつけている業前に驚嘆します。後半の酸鼻極まる描写も、虐げられた主人公たちの怒りの象徴としてこれ以上ないものだと感じました。そして、残酷描写に心を揺さぶられたところに投げ込まれる驚愕の事実。嘘だろ。嘘だと言ってくれよハナさん。
 逆噴射小説大賞に求められるもののほぼ全てを、満点に近い形で収めている作品だと思います。二作目『砂脈』もめちゃくちゃ怖くて面白いですが、今後の物語の広がりを感じたこと、強く心を揺さぶられたことから、自分はこの一作目を推すものです。

4.落花〈ラッカ〉

 22年度大賞受賞者、しゅげんじゃさんの作品。
 美しい。何もかもが美しい。
 人類史に残る挑戦。地上100km、地球と宇宙の境界線カーマンラインからの二人同時スカイダイビング。落下最中の極限状況下で繰り広げられる、ダイバー同士の命の奪り合い。互いに愛しいからこそ殺し合う凄絶なブロマンス。
 これは凄い。たまらない。情緒をガンガン揺さぶられる。
 自分の憶測ですが、元々この方には独特の、そして強固な美意識があるのだと思います。22年大賞受賞作『罪喰らうけだもの』はそのオンリーワンの美意識とエンタメ精神が見事に融合していましたが、本作『落花〈ラッカ〉』はそれに並ぶか、あるいはそれ以上のクオリティだと感じました。既に大賞を受賞されていますが、上記の理由から推すものです。

5.奈落の鼓動

  21年度大賞からの参戦者、cpさんの作品。私事ですが自分も21年度からの参戦組です。
 滾る。とにかく読んでいて血が滾る。
 周辺諸国の征服が完了した帝国、そこで催されるのは戦闘経験のない被支配民同士の拳闘試合。退屈な試合の観戦記事を書かねばならない新聞記者のジグ。お膳立てを過不足なく済ませたのち、突如バチバチに極まった戦闘描写が繰り広げられます。戦闘の熱狂ぶりはエスカレートを続け、周囲を巻き込み、やがてジグの、読者の心に火を点けます。そして言い放たれる最後の一言は、それまでのどの描写よりも衝撃的です。問答無用でボルテージがブチ上がります。 
 骨太な筆力カラテがベースにあり、かつ面白さの芯を喰っている強力な作品です。注目度の低い作品ですが、自分は本作が優勝争いすることを確信しています。本作が大賞を受賞したとなれば、負けた悔しさはあるにせよ大いに納得できるものです。それほどこの作品は強い。




 以上、計12作品の紹介でした。
 どうにか大賞発表前に間に合いました。スライディング成功です。あとはめいめい大賞受賞作を予想しながら、CORONA片手に発表を見守りましょう。




 あ、忘れてました。最後に一つだけ。




EXTRA.泥とプラチナ

 自分の二次選考突破作です。自分はこれで挑みます。

 これまで21年度と23年度の計2回最終選考に残りましたが、どちらの年でも優勝する覚悟は持てていませんでした。
 ですが、今年は皆さんと同様に優勝の心構えは出来ています。心境的な意味で、やっと皆さんと同じステージに立つことが出来ました。
 これまで気後れして言えなかったこの言葉も、今なら堂々と言えそうです。この一言を以て締めとさせていただきます。







「対戦よろしくお願いします」







 試してみるか? 俺だって元コマンドー優勝候補だ。