ルックバック
文章を書きたい。
感情を共有できる友人もいない。
閉じ込めておくことも、蓋をすることもできない。
だから書こう。そう思わせてくれた59分だった。
原作は、漫画『チェンソーマン』の藤本タツキ先生が描き、押山清高監督がアニメーション映画化した。
学年新聞に4コマ漫画を載せている小学4年生の藤野は、自分の画力に絶対の自信を持っていた。
ある日、不登校の京本の4コマ漫画も掲載される。
京本の画力に驚愕し、それから藤野は必死に絵が上手くなりたいと描き続けた。
だが京本との差は縮まることはなく、藤野は漫画を卒業前に諦めてしまった。
小学校卒業の日に、卒業証書を京本の家まで藤野が届けにいき、2人は対面する。
藤野は完全に負けたと思っていた京本から「ファンだった」と告げられ、2人は一緒に漫画を描くようになる。
キラキラした青春ストーリーだと勝手に思っていた。
まっすぐに漫画に向き合う姿、それだけじゃなかった。
エンドロールの藤野の背中を見ながら、
7年くらい前、スクールで講師をしていたときに出会った女の子のことを思いだしていた。
「藤野先生ぇ!!」と部屋から飛び出してきた京本にそっくりだった。
「先生ぇ!!」と教室に走りこんでくるところが笑ってしまうほど似ていた。
当時は家庭環境があまり良くなかったせいか、家族とぶつかることが多く進学について凄く悩んでいた。
悩んでいる彼女を見つけては「おいしいもの食べよっか」と2人でお昼ご飯をよく食べていた。
卒業後は、アルバイトをしてお金を貯めるということですぐに進学しなかったが、今から3年前「先生、大学に行くことにしました」と電話をくれた。
大学に行くことが正しいのかわからない。
元々は芸能の道を目指していたけれど、誰かの役に立つ仕事をしたいと福祉の道へ行くことを選んだ。
「先生、私の選択は正しかったのかな?」
電話の向こうで声が震えていた。
「自分が選んだことに後悔しないで、
違うかったなら、またやり直せばいい。
人生ってたぶんその繰り返し」
私はそこらへんに転がっているような言葉しか言えなかった。
そして「また今度会って話しようね」と約束をして電話を切った。
無力さを痛感しながらも、
自分の未来さえ否定をしていた子が、
迷いながらも前に進もうとしてくれていることは嬉しかった。
でも、その「また今度」は来なかった。
去年、かかってきた彼女からの着信は、
彼女のお母さんからだった。
「先生ぇ!!」ともう呼んでくれることのない姿を前にして、涙をこらえるように、目を閉じた。
「何言ってんの、おいしいもの食べにいくよ」という私に
「先生、またラーメンでしょ?」と笑って返してくる。
「ここら辺、ラーメンしかないじゃん」
「オムライス!」
「肉がいい、肉!ハンバーグいこ」
「先生、ここは平等にじゃんけん!」
道端で人目も気にせず、じゃんけんして盛り上がっている私たち。
その世界線があったなら、
またあの教室に駆け込んでくる笑顔に会えただろうか。
何が正解だったのか、今でも分からない。
本当は今でも誰かに教えてほしい。
DO NOT ルックバック。
振り向くな。
エンドロールの藤野の背中が
そう語っているような気がした。
大きな悲しみのあとも日常は続いていく。
もう本当に、ただそれだけなんだと思う。
ひたすら前を向いて、進め。