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サン・ジョルディの日にて
「ただいま帰りまし……えっ、福永せんせ!?」
いつも通り、仕事を終えて帰宅すると
「おかえりなさい!ふふ、待っててよかった!」
玄関に、私が帰るのを待ち構えていたらしい福永せんせの姿。
「渡したいものがあるんだ!ささ、早く上がって!ほら!」
勢いにのまれ、靴も脱ぎ捨てリビングに進むと、そこにはテーブルクロスでおめかししたローテーブル。
その上には愛らしいピンクのバラが生けられた花瓶と、
柔らかい光沢を称えたベージュが美しい1冊の本。
そして、それを収める用らしい函。
「わぁ……!え、どうしたんですかこれ!」
思わず聞けば、ふふんと得意げな笑顔が降ってきて。
「今日は『サン・ジョルディの日』だからね。どうしても、君にプレゼントしたくって!」
「『サン・ジョルディの日』…?」
そう、と満足げに頷く福永せんせ。
聞けばなんでも、先日中村さんと出かけた際に立ち寄った小さな花屋さんで聞いたらしい。
「もともとの発祥はスペインだったかな?バラと本を贈って、愛を伝える日なんだって。店長さんが言ってたんだ」
「へぇ…!すごくロマンティックですねぇ」
「だろう?だから、今日は僕から君にプレゼント。本は僕が装幀を考えたものでね。いつか渡したいと思ってたんだ」
そう言うと、幼げな笑顔がふと柔らかい大人のそれに変わる。
優しくまたたく星のような瞳が、私を捕らえて。
「改めて、にはなるけれど。伝えさせてね」
「愛してるよ。いつも僕の隣に居てくれてありがとう」
「僕の心に、言葉に、いつも寄り添ってくれてありがとうね」
「…………っ!!!」
まるで、何かの映画のワンシーンのような。
柔く、愛おしく、胸をいっぱいにするフレーズ。
愛おしげな声色に、真っ直ぐな視線。
それは、私の涙腺を緩めるのには充分すぎて。
「福永せんせ、ずるすぎません……?」
「ずるいかなぁ?…ってもう、なんで泣いちゃうの」
相変わらず泣き虫だなぁ、なんて目尻を優しく拭ってくれる。
手の温度が心地よくて、余計に涙がぽろぽろと落ちる。
「や、だって……!そんな、もう…こんなさあ!思い出に残るのをさぁ!!」
「もう、バラの花と笑顔の君を写真に収めたかったのに!」
カメラも用意してたんだよ?なんて言いながらも、
福永せんせは私をぎゅっと抱き締めてくれて。
「すいません……ほんと、嬉しくってつい………」
「もう。……でも、喜んでくれて嬉しいな」
愛を浴びると、人はこうも暖かな心地になるのか。
彼といると、愛の作用を全身で感じるなぁと思う。
「……ねえ、福永せんせ」
「ん?どうしたの?」
少し緩む彼の腕。
柔らかな熱を感じながら、顔を上げる。
私だって、伝えたいことがあるから。
「私も、愛してますよ。私こそ…いつも、私の傍に居てくれて、たくさんの愛をくれて、ありがとうございます」
「どういたしまして。……もう、愛らしいなぁ」
そう言われ、さっきよりも強く、ひしっと抱きしめられる。
「……あ、そうだ」
「……なんですか?」
顔を少しあげれば、どこかわくわくした彼の表情。
「来年は一緒にしようね、『サン・ジョルディの日』」
「2人で本屋さんと花屋さんに行ってさ。一緒に選んで送りあおうよ」
来年を当たり前に信じる、柔らかくて確かな言葉。
愛おしい声に笑みを浮かべ、私も当たり前に、
確かな言葉を返す。
「勿論ですよ!……来年も、その先も、ずっと一緒にしましょう」
「ずっと、ずぅっと、福永せんせのこと、愛してますから!」